続 音の生まれる場所(下)
「レオンはすごい自信家で…自分に落とせない女性はいないと思ってるみたいで…だから最後に食事した日、結婚するって聞いて、ユリアのことが…すごく心配になった…」

表情を固くした彼のことを思い出した。あの時、様子が変だったのは、それでだったんだ…。

「ごめん…あの時言った言葉は半分嘘だ…」

ぎゅっと手に力が込もる。その手を見つめ直して、彼を見上げた。

「お祝いのことなんて考えてなかった。…でも…結婚はしたいと思った。できれば…君と…」

少し顔が赤くなる。その彼を見ながら、心の隅でユリアさんを思った…。

「ドイツで何度かユリアに誘われた…。彼女はレオンのことで悩んでたし…力になってやりたいとは思った。工房で働けるように動いてくれたのは彼女だし、感謝もしてたから…」

『全く…と言えば嘘になる…』その言葉の意味が、ようやく理解できた。

「でも僕は…少しでも早く日本に帰りたくて…一日も早く、楽器を作り上げることの方が大切で…だから劇場以外の誘いは、一度も乗らなかった。彼女がレオンの気を引く為に、僕を使いたがってるのは知ってたし、それをしたからと言って、何の解決にも繋がらないから…」

彼を独り占めできる私を羨ましいと言ってた。ユリアさんは本気で、彼のことが好きだったんだ…。

「…それで理さんは…ユリアさんに特別親切だったんだね…」

彼女の為に動いてやれなかった。だから日本では、何とかしてやりたいと思った。

「うん…ごめん…なんでも後出しで…」

彼女が帰国するまでの間、話さずにいたのは、せめてもの罪滅ぼしだった…と彼は語った。

「おかげで私は…しばらく自信なかったよ…」

彼女とのこと、見せつけられて…。

「ごめん…本当に悪いと思ってる」

彼が謝る。頭を下げる仕草を見ながら、それでも正直に話してもらって良かったと思った…。

「…いいよ。全部ホントのこと聞けたから…許す」

頭を撫でる。でも、やっぱりユリアさんが心配…。

「ユリアさん、ドイツに帰ったらレオンさんとのこと…どうするつもりだろ…」

窓の外に広がるエアポートを眺めて言った。
あの飛行機の中のどれに、彼女が乗ってるのかも分からない。

「…多分、もう一度しっかり話し合うと思うよ。レオンはクセが悪いけど、ユリアのことは誰よりも好きだから」
「誰よりも好きなのに他の子に手を出すの⁉︎ なんで⁉︎ 」

ドイツでの彼もそうだけど、男性って、皆そうなの…⁉︎

「なんで…って、それは仕方ないって言うか…いや、それは勿論、ダメなのは十分、分かってるけど…」

しどろもどろ。理さんって、レオンさんの味方⁉︎ それともユリアさん⁉︎
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