センチメンタル・スウィングス
わっ、寒い!

私は思わずコートの襟に、首をすくませた。

春一番って、いつ頃の風だっけ。
いくら季節の行事に詳しい所長でも、天気事まで詳しく知らないよね・・・「あ」。

向かいから歩いてきた人と真正面に向かい合ってしまったので、私は左に避けたけど、その人も、私と同じ方向へ避けたので、また真正面に向かい合ってしまった。

「すみません・・・」
「いえっ!俺の方こそすいませんっ!えっと、俺、じゃない僕、次はこっち行くんで、あなたはこっちに・・・」

とその人は言いながら、私の肘あたりに軽く手を添えると、私を少しだけ、右側へ寄せた。

「あ・・・どうも」
「これでもう、ぶつかることはないですね?」

なんかこの人、一生懸命で・・・緊張してるみたい。

私は、その人を安心させるというより、励ますように微笑みかけると、「はい。ありがとうございました」と言って、事務所の方へ歩き始めた。

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