らぶ・すいっち
がっくりと項垂れたあと、ふと脳裏に浮かんだのは、順平先生のすました顔だった。
慌てて頭を振って、自分自身に訂正をする。
(ち、違うし!!)
頭を振っても、一度脳裏に浮かんでしまった事はなかなか消えてはくれない。
それどころか昨日の順平先生の表情が頭から離れなくなってしまった。
スイッチが入りましたか、そういって私を覗き込んだあとの、黒くてまっすぐな瞳。
思い出しただけで悶絶してしまいそうだ。
こんな調子で私……これから順平先生の教室に通うことができるのだろうか。
トリップしてしまっていた私だったが、お母さんの怒鳴り声でハッと我に返る。
「ちょっと、京香。話を聞いているの?」
「聞いていますってば」
「合田くんのお母さんから京香の住んでいるところを聞かれたとき、すんなりと合田くんに教えたのは、もう一度二人が付き合ってくれればいいのにと思ったからなの」
「……でしょうね」
合田くんが私のアパートの前に来た時点で、そのことは予想済みだ。
お母さんとしては、そろそろ三十という娘が恋人も作らず、ひとりでいることにヤキモキしていたのだろう。
そんなときに、昔からお母さんのお気に入りでもある合田くんからコンタクトを取りたいと言ってきた。
それをこれ幸いと喜んだに違いない。
手に取るようにわかる状況に、頭が痛くなる。