らぶ・すいっち





「まぁ、この件はもういいわ」
「そう言ってもらえると助かる」
「はぁ……。まあね、無理やり押し通してもしかたがないし。それよりたまには家に帰ってきなさいよ。お父さんが寂しがっているわよ」
「了解。近々遊びに行くね」


 絶対よ、という念押しの言葉とともに電話は切れた。

 お母さんからの機関銃トークのせいで寝起きの冴えない頭が一気にクリアになったが、ダメージは大きくて疲労困憊だ。
 そうでなくとも昨日のいろんな出来事が、ボディーブローのように後からじわじわと心のダメージを深いものにしていく。

 
「ああ……本当にどうしよう」


 今日は日曜日。次回の料理レッスン日まで一週間はある。
 それまでに何としてでも気持ちの整理をしておかなければ。

 気持ちの整理がついたなら、今度のレッスンのときに先生に聞いてみよう。
 あの言葉とキスの理由を。


(ってか、私。聞けるの? 本当に聞けるわけ!?)


 どう考えても順平先生に直接聞く勇気などない。ともなれば、コソコソと隠れながら気配を消し、隅っこの方で息を潜めているしかないのか。
 
次のレッスンまでに時間があるといえど、答えなど見つかる自信もなく……。

 私は何も策を練ることもできず一週間が過ぎ去ってしまい、土曜日の午前、美馬クッキングスクールへと向かった。

 かなりの決心をし、自分を奮い立たせて向かったのだが……思わず脱力してしまう結果が私を待っていた。




< 104 / 236 >

この作品をシェア

pagetop