らぶ・すいっち





「後輩が見た、私の異変ですけど。その前に私は、口紅を選んでいました」
「口紅……」
「はい。お祖母さんのお誕生日プレゼントに口紅をあげたいから選んで欲しいと言われた方のために」
「っ!」


 固まったままの私の背に、京の手が触れる。ゆっくりと労るように優しく擦ってくれる。
 そして私の耳元で囁いた言葉に、ドクンと胸が大きく高鳴った。


「もしかして嫉妬してくれたんですか? 順平先生なのに」
「……なんですか、その順平先生なのにって」
「だって、テレビとか雑誌に出てモテモテの順平先生ですよ。私なんかのために嫉妬なんて……するわけないって」


 なんだか泣いているように聞こえるのは私の気のせいだろうか。
 いや、気のせいじゃない。鼻をすする音を聞いて確信に変わる。


「京?」
「順平先生は私のこと大事にしてくれているってわかっているんです。弄られつつも言葉や態度は優しいし。だけど、考えちゃうんです。どうして私なんだろうって。もっとキレイな人だって、知的な人だって順平先生の周りにはいっぱいいるのに」


 すすり泣きながら、私の背を撫でていた京の腕はギュッと私の身体に抱きついてきた。
 私は京のそのキレイな黒い髪に手を触れ、ゆっくりと撫でた。


「じゃあ、反対に聞きますよ」
「え?」
「どうして京は私を選んでくれたのですか? 君の周りにもいい男はたくさんいるし、実際京のことを狙っている男がたくさんいると聞いています」
「まさか!」
「そのまさかですよ。それなのに、どうして私を選んでくれたのですか?」


 どうしてって……、言葉を濁す京に、私は答え合わせをした。



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