らぶ・すいっち





「もういいですよ。ほら、しっかり休んでください」


 布団をしっかりと彼女にかけ、私は腰を上げようとした。だが、それは叶わなかった。
 ジャケットの裾を京がギュッと握っていたからだ。


「京ちゃん?」
「先生……もう、いっちゃうんですか?」
「っ!!」


 ヤバイなんてものじゃない。思わずそのまま京に襲いかかるところだった。

 その表情は下半身に悪い。ドクンと波打つ身体をどうにかこうにか抑える。
 相手は病人。さすがに手を出してはいけないだろう。
 グッと煩悩を抑え、理性をなんとかひっぱりだしてきた。


「大丈夫、行きませんよ?」
「本当? 本当ですか?」


 だからその上目遣いでお願いのポーズはなんですか。私をどうにかしたいのですか。
 ええ、そうでしょう。無意識だってことはわかっています。
 しかしですね、京。それは蛇の生殺し状態だということに気がついていますか。

 理性を総動員しているこの状況。このお嬢さんに一度伝えた方がいいかもしれない。
 そんな考えを口にしようとしたのだが、次の瞬間フリーズしてしまった。


「良かった……せんせ、行っちゃやだです」
「……」
「せんせ?」


 熱で舌っ足らずになった京の口調は、あり得ないほどに可愛らしい。

 きっと京のことだ。熱が下がり風邪が治ったときに、この状況を話してももしかしたら覚えていないかもしれない。
 熱に浮かされているからこその荒技。それにまんまとかかったのは、下心たっぷりの私だ。



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