らぶ・すいっち






「あの、順平先生。先ほど電話で話したかと思いますが、ただいま来客中で」
「ええ、知っていましたよ。でもね、京ちゃん。君のためにと買ってきた食材がありますから、これだけは冷蔵庫に入れたいんです。入れたら退散しますから、ご心配なく」
「そ、それは私がやりますから。折角来ていただいたのに上がってもらえなくてごめんなさい」


 順平先生が持っているスーパーの袋を両手で掴むと、順平先生は素早く玄関の扉を開けてしまった。


「ちょ、ちょっと。順平先生!」


 私の制止もむなしく、順平先生は靴を脱ぎだした。そして玄関に置かれた男性ものの革靴を見て、順平先生は声を低くする。


「失礼、京ちゃん。おや、来客は男性ですか? 一人暮らしの京ちゃんのアパートに、私以外の男が上がっているとは……心穏やかでいることはできませんね」
「えっと、ちょ、ちょっと! 順平先生、待って! 待ってください」
「待てませんね。少しだけ挨拶をさせていただきますよ、京ちゃん」
「本当、待ってください。順平先生。男の人で間違いはないんですけど!」


 私の制止を振り切り、順平先生は笑顔で前に進む。

 確かに笑みを浮かべてはいた。しかし、穏やかな笑みとはほど遠かった。
 何と言ってもいつもは優しげな瞳が、どこか怒りに近いものに感じたからだ。

 しかし、今このアパートの一室にいる人物に順平先生を会わせるわけにはいかない。
 修羅場になることが目に見える。

 私は慌てて順平先生の後を追いかけたが、私の願いむなしく、最悪な形で対面することになってしまった。




< 225 / 236 >

この作品をシェア

pagetop