それは、一度終わった恋[完]

* * *

一之瀬さんとの初デートは、漫画喫茶と複合したカフェであった。
開放的なカフェで、お互いが好きな漫画を持ち寄りこのセリフがどうだの、このシーンに伏線が散りばめられているだの、それはもう熱く語った。

周りから見たらただの漫画オタクみたいだったろうけど、私は一之瀬さんとの距離を縮められていることを実感していた。

「本当、この漫画はうまく出来てる。絵が簡単に描かれている分話がしっかり重みがあるのが逆にいい」

「わかります、このシーン本当胸熱くなりました!」

「お前本当分かってるな~」

一之瀬さんにそう言われて褒められることが何よりも嬉しかった。

イタリアの友人にも熱烈な日本の漫画好きがいるらしく、よく新刊を送ってやってるのだとか。

最初はまさにそんな高校生のような漫画喫茶デートを重ねていた。
けれど、クリスマスのおうちデートを境に、一之瀬さんの家で漫画を読んだりのんびりすることが多くなった。

家での一之瀬さんは、私が座っていると何も言わずに膝に頭を乗せてきたり、たまに甘えてきたりするのが可愛らしかった。

「一之瀬さんは意外と甘えたなんですね」

「こういうギャップがあった方がキャラ立ちするだろ」

「はは、なんですかそれ」

男の人の家にいくのも、こうやって甘えられたりするのも、キスをするのも、その先も、すべてが一之瀬さんが初めてだった。

「澄美、今日泊まってく?」

「え、それは、そういうこと……ですか、殿方……」

「おう」

「待ってください下着の色確認させて下さい」

初めてを経験する日は、付き合って1ヶ月後に突然やってきた。

「え、じゃあ俺も事前に確認させて下さい」

「あ、はいどうぞどうぞ……ってそんなわけないじゃないですか!」

「キレのあるツッコミだ、さすが紅茶魔人を読んでただけあるなあ」

そう笑いながらも、彼は漫画を閉じてから私にキスをして、そのままするすると服を脱がせた。
今思い返してもあれはとんでもない早業だった。
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