それは、一度終わった恋[完]
「はい城内です」
「ネームどうですか?」
食い気味に低い声で言われたので、私はかなり怯んでしまった。どうですかも何も、まだ雪原のごとく真っ白なんですけど……。
「ど、どうでしょう……?」
「なんで疑問形ですか。俺もうすぐマンションつきますけど、煮詰まっているならロビーか近くのカフェで少し相談乗りましょうか?」
「え!? いや、今家にいなくて、ファミレスでネーム描いているので、ちょっと……」
こんなに原稿が真っ白な状態かつすっぴんに前髪を雑にピンで留めた状態で会うなんて無理に決まっているので、私は全力で拒否をした。
彼はなるほど、と意外にもすんなりと納得し、ではまた来週あたりに話し合いましょうと、次のスケジュールの話を始めた。
しかし、私は彼がずる賢い性格であるということを忘れて油断していた。
突如部屋の中にインターホンが鳴り響き、その音がスマホ越しに一之瀬さんの元へも届いた。
「あれ、ファミレスにいるんじゃないですか? 今インターホン聞こえましたけど」
冷や汗が額を伝い、私は苦笑いをしながらカメラを覗いた。するとそこには不機嫌な様子で立っている一之瀬さんの姿があった。
駄目だ……もう逃げられない……電話に出た時点でアウトだったんだ……。
「ど、どうぞ……」
私はもうどうにでもなれという思いで、ロックを解除した。
「どっか移動します? それともここでいいですか?」
ドアを開ける前に、カメラ越しに一之瀬さんが確認をしてきた。一応こういうところは紳士なんだな……。しかし、ロビーやカフェに移動したところでこの真っ白なネームを見せるなんてますます申し訳ない。ここはもう素直にドアを開けて、謝るしかない……。
「いえ、ここでいいです、どうぞ」
私は覚悟を決めて、そう伝えた。
少し目を見開いた様子の彼が、カメラに映っていた。