それは、一度終わった恋[完]
* * *
「実は漫画描いてるんです、私」
始まりはあの暴露からであった。
紅葉を見ながらサークルのみんなで酒盛りをしよう、という会で、紅葉が綺麗でついつい飲み過ぎてしまった。
公園にブルーシートを引いて、缶チューハイをしこたま買い込んで、お菓子をおつまみに紅葉を楽しんだ。
鮮やかに色づいた木々がとても美しく、踏むとカサッと音を立てる落ち葉が心地よかったのを覚えている。
最初は寒かったのに、みんなとバトミントンをしたり、テニスで遊んでいるうちにどんどん暑くなって、私はブルーシートにへたり込んだ。
元々あまり体力のない私は、かなり息切れをしていて、そのせいかお酒がまわるのも速かった。
ブルーシートには一之瀬さんしかいなくて、みんなは子供のようにはしゃいで遊んでいた。
シラフだったら、話したこともない院生の先輩のいるシートになんて絶対に行かないのに、私はふらふらと隣に座り込んでしまった。
「もうリタイア?」
「はあ……あまり体力は無いもので……」
ふーん、という興味なさげな声がかえってきたにも関わらず、私はお酒の力に任せてベラベラと話し込んだ。
「一之瀬さんって、ハーフなんですか?」
「あー、母がイタリア人」
「でもガッツリ日本の名前ですよね」
「まあ色々あって」
……なんだこの人、全然会話広げる気ないな。まあいいけどね、別に。
少し不貞腐れながらも、私は何本目かわからないお酒に手を出した。つい最近成人したばかりの私は、お酒のペースも配分もまだ把握しきれていない。
「一之瀬さんは、来年の春から秋冬社にいくんですよね」
「よく知ってるね」
「私、紅茶魔人アールグレイの大ファンだったんです、サインください」
「ぶ、よく知ってるね、そんな昔の漫画」
え、この話通じる人、いたんだ。
今は既に廃刊になったしょうもないギャグ漫画を知っている人に初めて出会えたことに驚いた私は、目を丸くして一之瀬さんを見つめた。
「ヒコ丸先生のやつでしょ? あれ本当過去最高にしょうもない漫画だったよね」
「いつも同じパターンで主人公負けるのに、なんか分かってても読んじゃうんですよね」
「はは、分かるわ。ていうかあの漫画知ってる女の子いるんだ、なかなかの漫画好きだね君」
一之瀬さんもなかなかの漫画好きですね! あんなに短期間で終了してしまった漫画を知っているなんて……なんだか嬉しくて舞い上がってしまった私は、つい暴露してしまった。