うそつき王子の秘密のキス

Sachi side

【Sachi side】



 えっ……ええと。


 一体、何が起きたんでしょうか?


 わたし、ガラの悪いクラスメートに絡まれている井上君が心配になって、声をかけたんだけども。


 怒ったクラスメートから逃げ出すべく、井上君とあちこち走りまわり……職員室に二人で飛び込んで。


 その場で井上君は、貧血で倒れた……はずなのに。


 今回の騒ぎの一部始終を聞いた先生が、保健室からいなくなった途端。


 けろっとした顔で起き上がり『帰ろうぜ』ってメモを書いてよこして来たのに驚いた。


「帰ろうぜって! 貧血! 大丈夫なの!?」


 驚いたわたしの言葉に、井上君は『大丈夫』って手でOKマークを作る。


 そして、呆然としているわたしに、にこっと笑うと、さらさら先生あての手紙を書きだした。


 要するに『調子が戻ったのでもう帰る』という内容らしい。


 メモ用紙に言葉を書いてゆく井上君は、全くいつもと同じ様子で……なんか、今まで貧血だったのが、嘘みたいだ。


 とてもキレイな字で、よどみなくテキパキとお手紙を書いている所を見ると、やっぱり、井上君って、すごく頭が良いんだと思う。


 きっと、今までずっと勉強ばかりしてたんだろうし。


 今日みたいなことに巻き込まれたのは、初めてなんじゃないかな?


 わたしもこんなことは初めてで、何だか、今ごろになって震えて来る。
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