うそつき王子の秘密のキス
「大丈夫。学校の行き帰り、バイクだし。
 ぱぱっと帰っちゃえば……ってなに?」


 わたしが交通手段『バイク』って言った途端。


 井上君が、ビックリしたような顔をして顔を上げ、モノ言いたげにこっちをじっと見た。


「えっ……ええっと、わたしがバイク通学だと、意外……かな?」


 いっつも、そう。


 わたし、相当地味で大人しく見えるらしい。


 バイクだけじない。バンドだとか、クラブとか。


 ちょっと真面目じゃないイメージのモノに興味あるって言うと大抵。


 今の井上君みたいに驚いた顔された揚句『ええっ~~似合わない』って言われる。


 実際、井上君が何も言わないのは、単に声が出ないだけだから、だろう。


 だって、ほら。


 好きなインディーズバンドのメンバーが、バイクのツーリングが趣味だって聞いて憧れて……なんて。


 わたしが焦って、説明しているのを彼は、何回か瞬きをして聞いて。


 すっと目を細めると、またさらさらと文字を書き出した。


 ……きっともその言葉は『キャラじゃないから、やめとけば』とか、そう言った類いじゃないのかな……


 井上君にまでそんなコト言われたくないな、って。


 なんとなく腰が引けたまま。


 たじたじと後ろに下がったら、まるで『逃がさない』とでも言うように、がしっとわたしの手をつかみ。


 ついでに、メモも渡された。
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