Fun days
カメラ×3

カメラ

火曜の朝、一限の英語に出るため
いつものように美桜は村田を叩き起こした。
朝の戦いを終えた美桜は、
居間の窓から外の景色を見ながら、一息つく。

空は、積み重なったような雲に覆われている。
梅雨時だから雨が降ってもおかしくはないのだが、
天気予報によると、今日は降らないらしい。
この季節にしては上出来の撮影日和だ。
美桜は鞄からカメラを取り出すと、写真を撮り始めた。

”カシャ”

”カシャ”

シャワーから出た村田は、異音を聞いて居間に行く。

「美桜…何してるの?」

髪をタオルで拭きながら聞く。

「写真撮ってるの…」

と言って振り向くと、上半身裸の村田がいたので
あわてて目をそらす。
美桜の家には男がいないので、ああいうのは見慣れない。
今日も全然起きず、ついさっきまで
殺意すら抱いていた村田なのに、どきどきしてしまう。
美桜は深呼吸をして気を取り直し、
窓の外に再びカメラを向け、写真を撮り始めた。

「ふーん…」

何で写真を撮っているのか、
何で美桜がそっけないのか、
全然わからないけど、あとで聞けばいっか
と洗面所に戻る村田だった。


朝の静かな空気の中
学校へ向かって二人は歩き始めた。

「で、なんで突然
 写真を撮り始めたの?」

村田が美桜に聞く。

「幼馴染が古いカメラをくれたの。
 現像してあげるから、好きな風景を
 撮ってきなって言われたんだ」

嬉しそうに答える美桜。
カメラの入った鞄を大事そうに抱えている。

ああ、例の男の幼馴染か…。
村田は、自分の顔が冷めた顔に変わっていくのを感じた。
ため息が出そうになるのを抑えて、考え直す。
…でも、美桜は好きな人はいないって言ってたもんな。
信じないと…

「その人、ここの大学の卒業生で
 今の学校の風景も見たいって言ってたから、
 学校の写真を撮ろうと思って」

村田の冷めた顔を見ずに、美桜が言う。

「写真研究会に入ってたから
 部室棟行ってみようかな。
 全然行った事ないけど」

いつになく饒舌な美桜。
にこにこ笑って本当に嬉しそう。

やっぱり幼馴染のことが
好きなんじゃないだろうか…
先ほどの決意を簡単に覆す村田。

ふと、ひらめいた。

「…美桜が写真撮ってるの、見てていい?」

大崎に、たまには引いてみなって言われて、
最近は美桜のまわりを
ウロウロしすぎないようにしていた。

でも今日はそんなことは言っていられない。
できるだけ美桜の
近くにいたほうがいい気がする。

「いいけど、多分おもしろくないよ?」

美桜は心配そうに言う。

迷惑ではなさそうだから
ついていっても大丈夫だな。

「うん。全然平気」

美桜といられるだけで嬉しいから。

幼馴染のことは気になるけど
今日の午後は美桜と一緒にいられる。
密かにテンションがあがる村田だった。
< 15 / 70 >

この作品をシェア

pagetop