Fun days

部室棟

午後になると、
美桜は早速カメラを取り出した。

村田は美桜の鞄を抱えてついていく。

購買から部室棟へ抜ける道に立って
あたりを見回す美桜。
そして、木々の間から見える
グラウンドを撮りはじめた。

村田はベンチに座って、美桜を見守る。
梅雨の合間の曇り空に
美桜の青いカーディガンが浮かぶ。
…何をしても、美桜は綺麗だなあ。
カメラを構えるうしろ姿に見とれる。

「村田、部室棟に行くよ~」

グラウンドを撮ることに
満足した美桜が、振り返って言った。

部室棟は
サークルの部室が集まっている場所で
サークルに入っていない二人には
全く縁がないところだ。

…部室棟って、勝手に入っていいのかな?
不安になった村田は、急いで美桜の隣に行く。

美桜はどんどん歩いていく。
まだ午後の講義がある時間なのに、
部室棟の前には、ちらほらと人がいる。
村田は何となく緊張してしまう。

「鈴ちゃん!」

美桜が誰かに声をかけた。

「美桜ちゃん、こんなところでどうしたの?」

部室棟の前にある外ベンチで
タバコを吸っている女の子が美桜にこたえる。

「うん、ここらへんの写真撮りたくて。
 勝手にうろうろして撮っていいと思う?」

美桜が鈴ちゃんと呼んだ女の子に聞く。

「全然いいでしょ。ね、中沢さん」

鈴ちゃんは、隣に座っている男の人に聞いた。

「あーいいよいいよ」

タバコを吸いながら中沢さんは答える。
不思議な貫禄。
きっと結構上の先輩だ。

「どうしたの?カメラ。
 写真研究会に入ったの?」

鈴ちゃんが美桜に聞いた。

「ううん、写真研究会には入ってないけど
 ちょっと撮ってみたくて。
 あ、写真研究会の部室ってどこ?」

鈴ちゃんは斜め上の窓を指差しながら

「あそこらへん。行ってみる?」

タバコの灰を落としながら言った。

「ありがとう。今日はいいや。
 また困ったら来るね」

と言って、美桜は中沢さんに
小さくお辞儀をして歩きはじめた。
村田も一応お辞儀をしてついていく。

「かわいいねー」
「でしょう」
という小さい声を背中で聞いた。

美桜は鈴ちゃんの声に押されたからだろうか、
キョロキョロしながらも、どんどん部室棟に入っていく。

すると部室棟の反対側の外に出た。
知っているところなのだろうか、美桜は迷いなく歩く。
かと思うと、急に立ち止まって

「ここに出るんだ~。ゼミ棟。
 ほら、ゼミ室が集まってるところ。
 あ、経営学部はまだ関係ないんだっけ?」

「うん、ゼミは3年から」

村田は答えた。
俺がいるの、忘れられてるかと思ってた。

「あ、写真全然撮ってない。
 探検に夢中になっちゃった」

笑って言う美桜。

そして美桜は、
まわりを見渡して、近くの木の根元に立ち、
カメラを構えて誰もいないゼミ室を撮り始めた。
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