Fun days

初回

そんなわけで、美桜は火曜の一限前に、
村田の家に寄ることになった。

村田は、学校の最寄り駅から
徒歩10分のアパートで、一人暮らしをしている。
さくっと起きてくれれば、30分早く行けば十分だろう。
それくらいなら何とかなるかな。
美桜は簡単に考えていた。

それに報酬はランチ。
金欠病の美桜には魅力的だった。

だが、軽い気持ちで引き受けたことを、
早速後悔することになる。

村田のアパートのチャイムを押すが反応はない。
初日だから出てくるかな、と思ったが甘かった。

こういうときのために
預かっていた合鍵を取り出し、ドアを開ける。

「村田~。朝だよ~」

玄関から声をかける。
うなり声が聞こえたような気がするが、村田は出てこない。

仕方がないので家に上がりこむ。

美桜はベッドのある部屋の引き戸をノックした。
何度か来たことがあるので迷いはない。

”ガンガン”

ガラスの引き戸を叩く。
…村田の反応はない。
ここから先はちょっと嫌なんだけど、仕方ない。

「開けるよ~」

声をかけて美桜は引き戸を開ける。

ベッドの上の布団が丸まっている。

「村田、朝だよ。」

布団の足元から声をかける。

「うーん…」

少し声がする。

「早くしないと置いてくよ~」

声をかけるが、何も返事はない。

まったく、と思いながら、
美桜は窓に歩み寄りカーテンを開ける。
出ていたと思った顔が布団の中に引っ込む。
村田の似合わない金髪しか見えなくなった。

布団の頭のほうから

「村田。いい加減起きて」

と冷たく言ってみる。

「うん…もう少し」

やっと言葉を話すようになった。

「ムリ。時間ぎりぎりだよ」

時間は少し余裕があったが、
男くさい匂いのこの部屋にいるのが、嫌になってきた。

「布団はがしていい?」

ベッドの横に仁王立ちになり言う。

「もう起きる…」

言いながら布団から顔を出し、起き上がる村田。

やれやれ、何とか起きたか。
任務を果たした美桜はほっとする。

しかし、ここからが長かった。

村田のシャワーを浴びる音、
ドライヤーで髪を乾かす音、
ひげを剃る音をソファに座って美桜は聞いていた。
起きてからこんなに長いとは思わなかった。

ふと、待っていることないじゃん、と思い

「村田、先行ってていい?」

と聞く。

「え、何で?もうちょっとだから待ってて」

村田が意外そうに言う。

役目は果たしたと思うんだけどな。
時間があるからいいか、と窓の外を眺めながら美桜は待つ。

「お待たせ。いこっか」

村田が満面の笑みで言った。

綺麗に整った金髪。
これができあがるのを待っていたのか、
と思うと何だか力が抜ける美桜だった。

その日の村田はずっとご機嫌だったが、美桜は疲れていた。

変なこと引き受けたなあ、と後悔したが、
一回で断るのは気が引ける。
何回か起こしたら断るか、と授業中密かに考えていた。
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