Fun days

ポジティブ

次の講義があるB棟に続く外廊下のベンチで、
村田は大崎を待っていた。

何も考えないでいると、
今朝のことを思い出して勝手に顔が笑ってしまう。
あやしいよな、と思って下を向く。
でもやっぱり思い出して、
ふふふ、と笑い、肩が揺れる。

無駄な抵抗だったようだ。

「おはよう、村田…何笑ってるんだよ」

怪訝そうな声で大崎が声をかける。

村田は質問に答えるかわりに、
満面の笑みを大崎に返す。

「…ああ、今日は美桜が起こしに来た日かあ」

「うん。幸せだった…」

宙を見つめて村田が言う。

「そのうち断られるんじゃない?美桜のことだから、
 はっきりとめんどくさいって言って。」

大崎が冷たく言う。

「大丈夫。今度bumpのライブ行こうって言ったら、
 目を輝かせてたから」

「ああ、それは名案だね。
 美桜はモノに釣られるからなあ。よくできました」

大崎に褒められて満足そうな村田。

「あー、幸せ。本当に美桜かわいい」

美桜のことは初めて会ったときから、可愛いと思っていた。

いや、可愛いって言うか、美人。
整った綺麗な顔をしている。
でも可愛いんだよなあ…。

村田は美桜を思い出して、またニヤニヤし始める。

でも、クールな美桜が、
あんな無茶なお願いを聞いてくれるなんて。
言ってみるもんだなあ。

あ、でも、もしかして…

「ねえ、美桜、俺のこと好きなのかな?」

村田が大崎に言った。

暴走した村田を横目に、冷静な大崎は、
美桜と村田のいつもの会話を思い返す。

落ち着いている美桜に、まったく落ち着きがない村田。
村田が話しかけるのを10とするならば、
美桜が答えるのは1~2。
しかも、へ~、とか、ふーん、とかそんな感じ。

あそこまで冷たくされて、よくそう思えるなあ…

大崎は村田のポジティブさに感心しながら

「…だといいね」

と答えた。
このポジティブがどこまでいくのか、見てみたい大崎だった。

「うん…だといいなあ…」

大崎の思惑に全く気づかない村田は、再びにやつきはじめる。

美桜とつきあえたら…

朝起こす時もあんなに冷たい声じゃなくて
『起・き・て』って感じで甘い声出しちゃったりして…

起きないなら、一緒に寝ちゃうよ、
なんて言ってベッドに入ってきたり…
英語行くどころじゃなくなっちゃう?
まあいいか、二人で来年も同じ英語を取れば…

村田が考えていることの想像がついてしまう大崎は、
気持ち悪くなって

「浸っているとこ悪いんだけど、そろそろ講義行こう」

と冷ややかに声をかけた。
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