Fun days

真二

小さいころから写真を撮ることが好きだった真二は、
高校生になって部屋をもらうと、そこを暗室にしてしまった。
自分で撮ったフィルムを自分の暗室で写真に現像する。
その繰り返しに真二はのめりこんだ。

小学生だった美桜は、その暗い部屋が気になっていた。
真二の妹のカナと遊んでいるとき、
ちょっとドアが開いていたから、
こっそりのぞいてみたことがある。

真っ黒なカーテンに囲まれた部屋には
四角いバット、ビーカー、
機械的なランプ、薬剤が入ったビン、
知らないものがたくさん置いてあって
なんだか学校の理科室を思い出した。

入って触ってみたいと思ったけど
密かに真二に憧れていた美桜に
そんな冒険はできなかった。
勝手に入ったら、きっと嫌われてしまう。

中学生になった美桜は、制服の写真を
カナと一緒に、真二に撮ってもらった。

「この写真も真ちゃんが
 部屋で現像してくれるの?」

何気なく美桜が聞くと

「これは大事な写真だから、
 プロに現像してもらうよ」

笑って真二は答えた。

「そっかあ」

ちょっと残念そうに美桜が言うと

「他の写真だけど、現像するところ見る?」

と真二は言ってくれて
美桜は喜んでついていった。

それから、真二が部屋で現像するとき
助手は必ず美桜だった。
真二のことも好きだったけど、写真が浮かび上がって
絵になっていく瞬間が大好きだった。

美桜も撮れば、と言われて、おこづかいをためて
初めてカメラを買ったけど、真二に比べると、
変な写真しか撮れなくて、がっかりしてしまった。

やっぱり真ちゃんはすごいんだなあ
なんて思っていたら、真二はカメラマンになり
実家を出て、一人暮らしをはじめてしまった。

さみしいなんて言ったら、かっこ悪いから言わなかった。
あの時、さみしいよ、大好きだよって言えたら
どうなったのかな。

美桜は久しぶりに入る真二の暗室で
そんなことを思っていた。

「美桜、これいいじゃん」

かなりのおじさん、になってしまった真二がほめたのは
ジャズ研で撮った村田の写真だった。

ふふっと笑ってしまう美桜。

「いいでしょ。
 本物よりすごく良く撮れてる」

誇らしげに写真の中の村田を見る。
…やっぱりもっと撮りたいなあ。

「美桜、今度一緒に写真研究会に行こう。
 暗室借りられるように話してあげる。
 俺、なかなか帰れないからさ」

「ありがとう。」

もっと写真が撮れるんだ。
写真の村田を見て、また笑う美桜だった。
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