Fun days

シャッターチャンス

いつもの火曜日がまたやってきた。
美桜は玄関のチャイムを押して
すぐに合鍵で開けて、中に入る。
ガラスの引き戸を開け、村田、朝だよ、と
言おうとして、今日は止めてみた。

美桜はカーテンを開けずに、村田の寝顔をこっそり見る。
意外と可愛い顔して寝てる。
カメラに手がのびる美桜。
…いや、これは撮っちゃだめだ。変態だわ。
黙ってカーテンを開けると、
村田の顔は布団の中に入ってしまっていた。

「村田、朝だよ。布団はがすよ」
と言って、いつものように布団を取ろうとして、
やっぱり止める。
村田の顔にかかっている布団だけめくり、
村田の顔をじっと見てみる。
髭がうっすら生えて、口が開いていた。

何だかがっかりして
「村田、早く起きて」
と布団を剥ぎ取って、不機嫌に言う。
急に怒られて、びっくりして起きる村田だった。

村田のドライヤーの音を聞いて、
美桜はこっそり洗面所を覗いてみた。
村田が上半身裸だったので、早まった、と思い、ソファに戻る。

ドライヤーの音が止まったので、少し待って、また覗いた。
村田は服を着ていた。
ほっとして、そのまま覗く美桜。
村田は真剣な顔で、髪型をセットしている。
好きな子が気に入ってくれたから、金髪なんだっけ、
と思い出して嫌な気分になり、ソファに戻る。

村田の家を出て、学校に向かいながら、
朝の村田は撮るところがないな、と美桜は思った。
ふと、ドライヤーを使う、裸の背中を思い出す。
私もいつか、ああいうの撮りたくなるのかなあ…
もうちょっと筋肉質がいいかも。
村田の背中はちょっと頼りない気がする…

「美桜、ジャズ研の写真、できたんだっけ?」

不意に村田に話しかけられて、驚く美桜。

「あ、うん、教室で見せるね」

何故か顔が熱くなる。
村田の顔が直視できない。
変なこと考えてるからだ…と自分を責める。

「もうすぐ、夏休みだね」

そんな美桜に気づかず、話を始める村田。

「…そうだね。村田は実家に帰るの?」

ちらっと村田を見て聞く美桜。

「ううん。バイト休まないでくれって
 店長が言うから、ずっとこっちにいる」

「そっか。じゃあ学校に来るときは、連絡するね。
 一緒にご飯でも食べよう」

美桜が言うと、村田は嬉しそうに笑って頷く。

あ、今日、初のいい顔。
…村田の笑顔って、いいかも。
ジャズ研の村田の写真は
憂いがあるようないい顔だったけど、
笑顔も撮りたいなあ。

学食で、大崎君と和美と村田を
記念写真みたいに撮ったけど、
みんなで話して、笑いながら撮ったら
またいい写真が撮れるかもしれないな…
よし、またお願いして、撮らせてもらおう。

「…あのさ、夏休みになったら、
 どこか遊びに行かない?」

村田が言う。ちょっと顔が赤い。

「うん。いいよ。
 …花火、見に行きたいな」

美桜が答えると、また村田は笑う。
花火にもカメラを持って行こう、と美桜も笑った。
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