Fun days

写真研究会

部室棟へ行く道は、狭いわけではないが、
広いわけでもない。
真二と美桜が並んで歩く後ろを
村田はついていった。

何も考えずに、行きたいと言ったことを
すでに後悔し始めていた。
だからと言って学食に残っても
大崎と和美にいじめられて、悶々とするだけだろう。
こっそりあとをつける勇気もない。
ばれたら美桜に怒られそうだし…

それにしてもこの絵づらは情けない。
道が広くても、この二人の間に入るのは無理。
二人の間に流れる親密感。
わかってはいたけど、間近で見るとショックなもんだなあ。
まるで他人事みたいに村田は考えていた。

「ここだよ、写真研究会」

真二があやしいランプのついた
部屋の前で立ち止まった。

”コンコン”

ノックをする真二。
…誰も出てこない。
もう一度、真二はノックをした。
やっぱり出てこない。
真二がポケットから鍵を取り出すと、ドアが開いた。

「…やっぱりいた。久しぶり、吉岡」

真二が、ドアを開けたメガネの人に言う。

「…山中さんじゃないですか!
 どうしたんですか…」

吉岡が話しているが
真二は構わず部室の中に入っていく。

「妹連れてきた。この子も写真撮るから」

真二が美桜を見ながら言う。
妹?と思っていると

「妹じゃなくて、隣に住んでいる
 若林美桜です。よろしくお願いします」

しっかり訂正して自己紹介をした。

「たまに暗室貸してあげて。結構撮るから、
 俺じゃ追いつかなくなってきた」

真二が椅子に座りながら言う。

「あ、はい。全然大丈夫ですよ。」

吉岡が笑って言う。
新たな敵の出現か、と村田は警戒した。

「吉岡はいつでもここにいるから
 暗室使いたくなったら来ればいいよ」

と真二が美桜に言うと

「いや、いつでもいるわけじゃないですよ。
 ちゃんと家に帰ります」

「じゃ、最近帰ったのいつだよ?」

「えーと、一週間前かな…」

真二と吉岡の会話を聞いて、明らかに美桜がひいている。
この人は敵じゃなさそうだと村田は安心する。

「どんな写真撮るんですか」

吉岡は椅子に座りながら、美桜に聞いた。

「…これ、自信作です」

一枚の写真を取り出して、吉岡に見せる美桜。

「…へー、いいじゃないですか」

笑って吉岡が言う。
まだ部室のドアの前に
突っ立っている村田と目が合う。
真二もちらっと村田を見て笑う。

…何?
このタイミングで会話に入れってこと?
難易度高いんですけど…

村田が困っていると

「暗室、入ってもいいですか?」

美桜が言って、部屋の奥に入っていく。

「うわあ…いいなあ」

真二の部屋とは違って、すぐ近くに流しがあるし、
大判のひきのばし機もある。
顔が勝手ににやついてしまう美桜。

「気に入ったみたいでよかった。
 じゃ、帰るね」

真二は言うと立ち上がった。

「もうですか?」

引き止めたのは美桜じゃなくて、吉岡だった。

「うん、これから仕事だから。
 また来るよ。」

と言う真二に、吉岡は自分の写真を見せ

「山中さん、ちょっとだけ、
 この写真見てもらっていいですか…」

アドバイスがほしいようだった。

美桜はそんな真二と吉岡に構わず
暗室を眺めている。

キラキラした目で、これも見たことのない顔だな…
村田は思った。

暗室に入って美桜に話しかけようと
テーブルの横を通ると
見覚えのある写真が置いてあった。

美桜がジャズ研で撮った村田の写真。

美桜の自信作ってこれ…?
顔が熱くなる。
手で顔を隠して、部室のドアの近くに戻る。
それでみんな俺を見てたんだ…。

なんかもう…
恥ずかしいって言うか
なんて言うか、もう何か…

村田がドアに向かって
顔を赤らめていると、真二が

「じゃ、村田君、帰るね」

と声をかけた。

「…あ、はい」

と体を脇に寄せる村田。

真二は村田の前で立ち止まり、

「美桜は、ああ見えて怖がりだから。
 よろしくね」

と小さく言って、出て行った。

振り返ると美桜は真二を見送りもせず、
吉岡と暗室で話している。

もしかしたら、あの人も敵じゃないのかも。
いや、そんなはずはないか、と思う村田だった。
< 28 / 70 >

この作品をシェア

pagetop