Fun days

奪う

来週から夏休みだからだろうか、
人がいない広場を抜けて、美桜はゼミ棟へ向かっていた。

「美桜!おはよう!」

聞きなれない声で、名前を呼ばれた美桜は
不安を感じながら振り返った。

やっぱり。
笑顔の健吾が立っていた。

「昨日はありがとうございました」

「そんな他人行儀な。友達じゃん!」

豪快な笑顔で健吾は言う。
わざと丁寧に言ったんだけど、
嫌味は通じないみたいだな。

「美桜はこれから何の講義?」

「ゼミだよ。」

冷ややかな声で答える美桜。
呼び捨てされるの嫌なんだけど
はっきり言わないとわからないんだろうな。

「文学部は大変だな~。その後は?」

「村田に昨日の写真渡して、帰る」

「写真もうできたの?見たい!見せてよ」

美桜は、写真が入っているファイルを
鞄から出して、健吾に渡す。
ファイルをめくり、写真を見る健吾。

「…いいじゃん。美桜すごいな!」

呼び捨ては嫌だけど、
喜んでもらえてよかった。

「うん。でも失敗しちゃって
 写っていない人がいるから、
 また撮りに行っていい?」

「おう。週末試合があって、
 明日も練習するから、来なよ」

「じゃ、またお邪魔する」

よし、今度こそ全員のいい顔を撮るぞ。

「写真、村田に渡しておくよ。」

健吾はそう言って、写真を鞄にしまった。
村田に、学食で渡すってメールしたけど
…まあいいか。

「わかった。じゃあよろしく」

と言って、美桜はゼミ室に向かった。


ゼミが終わると、村田からメールが来ていた。

『健吾から写真もらったけど
 学食来ないの?』

もう今日の講義はないし、
ゼミで夏休みの課題をどっさり出されて
気が重いから、帰りたい…
昨日も帰りが遅かったし。

『今日は帰るね♪
 また明日』

メールの返事を見て、うなだれる村田。
花火の話、したかったのに…

美桜は健吾のことを
絶対に好きにならないと思うけど
俺のことも好きにならない気がする。

ため息をつきながら
うらめしそうに健吾を見る村田だった。
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