Fun days

試合3-2

試合に戻る村田の背中を見て、
モテてるよ、と教えるのを忘れたことに気づく。
まあ、いいか…。

…もし、村田があの子と付き合ったら、
私は、今みたいにバスケには来れないんだろうな。
バスケの写真、撮れなくなるのかも。
村田と友達のままでいても、いいのかなあ。
彼女は嫌がるかもしれない。
そしたら、もう村田の写真も撮れないんだ。

シュートを決めた村田が、美桜を見て笑う。
微笑み返す美桜。
現実に引き戻される。

うん。
村田はあの子とは付き合わないな。

…でも、今日、この瞬間に、
こんなにたくさんの人たちが、ここに集まっていて、
それを私は撮っている。
もう、二度と、同じ写真を撮ることはできないんだ。

ジャズ研の村田だって、エアバスケの村田だって
同じ写真を撮ることはできない。

今日一日、ここで写真を撮れて良かった。
みんなのいい顔をたくさん撮った。
いい写真が無かったとしても、私は幸せだったな。

村田のおかげだなあ。

…前にも、そんなことを思ったよね。
あの時、ちゃんとありがとうって言ったっけ?
…結局ちゃんと伝えてないような気がする。
うん。彼女のふりくらい、いくらでもしてあげよう…
でも、コメダ珈琲には行こう。

そんなことを考えていたら、杏子がベンチに向かってきた。

「杏子ちゃん。審判終わり?」

「うん。交代要員も、もういらないみたいだから、戻ってきた」

「お疲れ様でした。試合って大変だね」

「そうなの。美桜ちゃんも疲れたでしょ」

「うん。でも、終わるの寂しいなって思っていたところ」

自分で言っていて、本当にそうだと思う。

「また来てね」

杏子が言う。

「うん。絶対来る。」

そう言いながら、
今、この瞬間をもっと撮りたい、と思い、
またファインダーをのぞく美桜だった。
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