Fun days

ダム

美桜はやっとたどり着いた
自分の部屋で、ぼーっとしていた。

写真の整理の続きしなきゃ。
それでURLを佐々木君にメールして…
あ、杏子ちゃん大丈夫だったかも聞きたい…
吉岡さんにも写真見せたいな…
頭は色々うるさいのに、体が動かない。

村田に抱きしめられた肩が、まだ熱い。
髪は、ずっと撫でられ続けているように
くすぐったい。
村田の鼓動が、全身に残っていて響いてくる。
…何だか、苦しくなってきた。
ベッドに思わず倒れこむ。
あー…また抱きしめて欲しい…
そう思ってしまって、枕に顔をうずめる。
…村田に会いたい。
さっき、別れたばかりなのに。

村田に抱きしめられたら、すぐに涙は止まった。
「大丈夫だよ」と村田が言い続ける言葉に、
たくさんの気持ちが閉じ込められていたようで
心の中に入ってきて、私を温めた。
もう泣いてなかったのに、村田の体温が気持ちよくて
離れることができなかった。

村田の頬に触れていたら、キスしたくなって
ドキドキが止まらなくて、死ぬかと思った。
何とか離れて、少し顔を見たら、すごく優しい顔をしていて
また抱きしめたくなっちゃったから、顔を見れなくなった。
どう動いても挙動不審で、どうしたらいいかわからなくて、
このまま村田の家にいたら、
おかしくなりそうだったから、慌てて帰ってきた。
「送る」って言ってくれたけど、
「バイトあるんだから、いいよ」って言って、
さっさと帰っちゃった。

村田、呆れたかなあ。
慰めてくれたのに、ありがとう、も言ってないや…
無事帰ったよ、ありがとうって、さらっとメールしよう。

びっくりするくらいすぐに、メールは返ってきた。
『良かった。安心した。
 明日の練習来れる?』
村田の優しい声が聞こえて、ドキドキする。
メールでこんなにドキドキするの、初めてだ。

…明日の練習かあ。
杏子ちゃんの手伝いするって言っちゃったけど、
私に会いたくないかも。
…いや、でも私は杏子ちゃんに会いたい。
会って、ごめんねって言いたい。

…村田にも会いたい。
ああ、でも、会いたくない気もする…
何だか、恥ずかしい…
なんだろ、この気持ちは…
もう、どうしよう…。

ふと、杏子ちゃんの
「素直になりなね」という言葉を思い出した。
…うん、そうだよね。
村田はいつも私のことを気にかけて
見ていてくれた。
いつもそばにいてくれて。
ずっと待っててくれた。
…大好き。
村田が大好き。
そう思ったら、涙が出てきた。
…悲しくないのに、変なの。

明日、バスケに行こう。
村田に会いたい。
会って、大好きって言いたい。
今度は私が、村田を抱きしめよう。
そう思ったら、またドキドキしてきた。
あーもう。…落ち着かない。
多分、ダムが壊れたんだ。
一生懸命止めてた何かが溢れちゃった。
たくさんせき止めてたから、なかなか止まらない…
大丈夫かな、私。村田のこと、襲ったりして…

すると、電話が鳴った。村田からだった。
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