Fun days

右腕

美桜は火曜日になると、村田を起こしに行く。
そして一緒に授業に出て
学食でランチを食べて、二人は帰る。

その後、美桜と本屋に行く日もあれば、
村田の家でスイーツを食べる日もある。
そんな関係に満足な村田だった。

…でも。

真剣な眼差しで本を探す美桜。
美味しそうにスイーツを食べる美桜。
DVDを見て涙を流して笑う美桜。

ふと、さわりたい、と思う。

きれいな長い髪の毛の先でも、
青いカーディガンの袖でも、
少しでいいから美桜にさわりたい。

…でも、できない。

美桜ははっきりと、嫌なことは嫌と言うタイプ。

食べたくないスイーツは絶対に食べないし、
いい映画だと巷で評判でも
見たくないものは見てくれない。

だから、俺に触られて嫌だったら、
二度と会ってくれなくなるに違いない。

…そんなの嫌だ。

想像してみたら、体の中が
すべて空洞になったような錯覚に陥って、寒気がした。

今、美桜がいなくなったら
俺の大学生活は終わったも同然だ。
好きな子はもちろん、友達も一人失うことになる。
…友達全然いないのに。

あと、英語。美桜無しで
一限の英語に出るなんてもう無理。

…もっと近づきたいなんて、無謀な考えなのかなあ…

隣に座って、英語の授業を聞いている美桜。
髪も手も、すぐ触れそうなくらい
近くにあるのに、遥か彼方に見える。

…本当に遠くに見える…

村田は目を閉じた。

となりの金髪がカクンと小さく揺れたことに気づいて、
美桜は村田を見る。

…また寝てる。
この英語の先生、隣に座っている私を睨むんだよなあ。
何度起こしても村田は寝るし…

うーん、と策を考える美桜。
ひらめいて、筆箱から油性マジックを取り出す。

村田の右腕を自分の膝の上に乗せる。
起きない。
普通は起きるよね…。
呆れつつ、村田の手の甲に油性マジックで文字を書く。

村田は右手に違和感を感じた。

なんかくすぐったい…
目を開けると、美桜が俺の右手を
両手でしっかり握りしめて、何かしてる。

ふっと笑う村田。

夢かな…

腕に触れる美桜の手のひらの温度と
美桜の髪の毛の先、マジックの冷たさ…

マジックの冷たさ?

美桜が起きた村田に気づく。
にやりとして村田の右手を机の上に戻す。

手の甲には”おきろ”の文字。

はい。
苦笑いしながら頷く村田だった。
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