ドッペル・ゲンガー
「離せ、このっ……」

 後ろから抱きつくような格好で必死に抑え込む。

 大きく左右に振り乱す女の手に握られた包丁が鈍い音を立てながら何度も宙を切った。

 その様子にぞっとしながらも、私は渾身の力で彼女の体を抑え込む。

 ここからどうすればいい。

 決死の思いで背後を取ったはいいけど、その次にどうすればいいかなんて考える余裕もなかった。

 激しく抵抗されて、次第に私の腕が解けていく。

「んのっ、おらァ」

「きゃっ……」

 ついに引き剝がされてしまった私の体は、バランスを崩したまま背後にあったコンクリートの塀に衝突する。完全に無防備なまま背中を強打したので、肺が一瞬動きを止めた。

「ごほっ、ごほっ……」

 上手く呼吸ができない。

むせかえりながら薄く開いた視界に映ったのは、こちらを見下ろしながら口角を釣り上げた女の姿。

「残念だけど、仕方ないよね? ダイジョウブ。私が……」

 大きく振り上げられた包丁に、私はぎゅっと瞼を閉じたーー
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