濃紺に染まる赤を追え。
窒息しそうで手を伸ばす





「きりたにー」

「……」

「桐谷ってば」


呼べば、ゆるりと気怠げに振り向くシルキーアッシュ。



「よっこ」



発せられた名前を合図に足を踏み出す。

今日も快晴。

夏の気配を含んだ風は、どこか生温い。


「もう三限目か」

「うん」


呟いた桐谷に頷きながら、その右隣に体育座りをする。

太陽が照り付けていたのか、コンクリートは少し熱を持っていた。


「桐谷、これいる?」


スカートのポケットを探り、直方体を差し出す。

桐谷は目を細めて頷き、わたしの手の平からキャラメルを攫った。

微かに触れた指先が愛おしい。



「そういえば桐谷、昨日教室来てたね」


口をもぐもぐ動かす少年に言うと、思い出したかのようにグリーンのカーディガンのポケットを探る。

ん、と言って差し出されたのは、くしゃくしゃの紙切れ。

よくよく見ると、それはテストの点数の個表で。


「……、本当に赤点なかったんだ」


呟くように言えば桐谷は、くすっと喉元で笑う。

頭上を飛行機が飛んでいく音が低く響いていた。


「これでゲームできる」

「あんまりやりすぎちゃだめだよ」

「厳しいなー」

「でも本当にすごいね。やればできるんだ」




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