恋の治療は腕の中で
「君って、料理上手なんだな。」


先生は、美味しそうに食べてくれる。

「小さい頃から料理をしてましたから。
それに、食べるのも大好きなんで。」


先生の箸が止まる


「話したくなければ無理に言わなくていいから。」


別に話したくない訳じゃない。ただ、人に同情されるのが嫌なだけ。

でも先生には何でだろう、話しても大丈夫な気がする。


「たいした話しじゃないですよ。

母のお腹に私ができた時、母は癌であることが分かって、
周りは子供を諦めて癌の治療を優先させようとしたんですけど、母は私を産むことを選んで、私を産むと直ぐに亡くなったんだそうです。

家族の反対を押し切って私を産ませたと誤解された父は両方の親と絶縁状態になったらしいです。

だから、私はずっと父と暮らしていたのでお陰様で家事全般得意になりました。」


もう昔の事だから私は笑って話した。


「確か、1人暮らしって?」


「はい、父は8年前に亡くなりました。」


私は決して泣かない。

1人で生きていくって決めたんだから。

今までだって何度かこの話しはしてきた。私が笑ってこの話しをするとつき合っていた人は決まって

ーお前は強い女だな。ー って言われてきた。

ホントは強い女なんかじゃない。でもそうしないと悲しみで押し潰されそうになる。


ガタッ

笑っている私に先生は後ろからそっと抱きしめてくれた。


「ごめん。 辛いこと話させて。

俺の前で無理に笑うな。 悲しかったら泣けばいい。

お前の悲しみ俺が受け止めてやるよ。」


そんなこと初めて言われた。

今まで1人で頑張ってきたのに。

気がつけば涙か後から後から溢れ落ち。私は、嗚咽を漏らしていた。

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