あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。



太陽の光が煌々と降り注ぎ、眩い街の中。


主婦の一人が、光の反射に目をくらまして、ふと空を見上げた。


大きな光の前を、何かが横切っていく。


黒のマントをはためかし、黒色の箒に跨った少女。


感じる魔力も、存在感も普通のそれとは明らかに違った。


彼女たちは瞬時に悟る。


あれが、魔女なのだと。


この国を救った、英雄なのだと。


身体が自然と彼女の方を向いて、頭を下げていた。



***


箒に跨った少女は、その手を柄から離し、大きく上へと伸びをする。


そのまま、太腿で箒を強く挟むと、勢いをつけてくるりと一回転した。



「ああ〜! 風が気持ちいい!」

〈おいおい、王子が怒るぜ! これから戴冠式を控えてるんだ! 危険な行為はやめろ! あ、もう王サマって言った方がいいのか?〉

「はいはい、わかってますよーだ! まだ戴冠式してないんだから、王様とは呼ばなくていいでしょ」



はたから見ればまるで独り言を話しているようだが、言葉を発しているのはその黒の箒で、少女にしか声は届いていない。




「戴冠式かぁ〜、これが国民の前に出てやる初めての大きな儀式だもんなぁ」

〈〈建国の儀〉のときは急ぎだったから内密に行ったしな。 ……緊張してるか?〉

「……まぁね」



少女はくるくると巻いている黒髪を指先に巻きつけた。



「国民の前に出るって考えると、どうしてもね。 あたしはこの人たちのトップなんだ!って考えるとプレッシャーも凄くて……」

〈お前の気持ちは痛いほどよくわかるよ〉

「やっぱり伝わっちゃってる?」

〈ビシビシと〉

「……ごめんね」

〈謝んなよ〉



箒が小刻みに震えた。



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