あたし、『魔女』として魔界に召喚されちゃったんですが。
次の言葉を発するまでにたっぷり10秒はかかった。
「いきなり、何」
「ジェントルマンらしく、謝ったつもりだが?」
上目遣いで口角を片方だけ意地悪げに上げている。
どうやら、先程の仕返しを十倍返しで返されたようだ。
本当、心臓に悪い。
気を抜いたら、その場にへたり込んでしまいそうだ。
あまりの悪行と距離の近さに、すっかり忘れてしまっていた。
彼が、王子であることを。
「さて、この話は終わりにしていいか。 この後行きたいところがある」
あたしの足が震えていることに気づいているのかいないのか、カカオはあたしの右手を掴んだままで今あたしが登って来たはずの階段を降り始める。
「まおが本当の魔女だと確認した。魔女の任務については昨日説明した通り、王族の警護が一番の仕事だ。この国は軍隊を有しているが、その中でも精鋭達が集まる部隊がある。それが〈護衛隊〉だ」
「護衛隊……それってあたしの仕事と似てる……」
「そう。 まおも実際はその護衛隊に籍を置くことになる。 ただ魔女は特殊な立場だからあくまで軍籍の上ではだがな」
「じゃあ、あたしの他にもカカオを護衛する人はいるってことなんだ」
「まおがこちらに来るまでの間、基本的な魔女の仕事を彼らが受け持ってくれていた。 護衛隊は二つの部隊からなるが、メンバーは10人と少ない。 しかし、精鋭ばかりだからその強さは相当だ。 その者たちに先に紹介しておきたい」
カカオが連れてきたのは、あたしが生活しているいわゆる王族の私的な塔とは対角にある建物だった。
外には広く整備された庭が広がり、壁側には武器が立てかけてあるのでここは軍の者が生活する場所であることがうかがえた。
カカオは木でできた扉を叩く。
すると、すぐに扉が開いて中から元気そうな青年が姿を現した。
青みがかった黒髪が、ぴょんぴょんとあちこち跳ねている。
「お待ちしておりました。どうぞ、中にお入りください」
丁寧な口調でカカオと会話したかと思うと、あたしの存在に気づいたのかにこりと無邪気な笑顔を向けてくれる。
笑うと八重歯が見えて、幼く見えた。
中に入ると、そこには先程扉を開けてくれた人も含めて二人の男の人がいた。
「お初お目にかかります。 護衛隊 第一部隊隊長 エディと申します」
「護衛隊 第二部隊隊長 フランシスです」
最初に挨拶をしたのが、扉を開けてくれた元気な黒髪の人で、次に挨拶をしてくれたのが中で待っていた淡い榛色のふわふわな髪の男の人だった。
「まお」
説明もそぞろに、カカオに挨拶をせがまれ、あたしも頭をさげる。
「魔女の、まおです。 こっちはシュガー、使い魔です。 よろしくお願いします」
魔女、と言ったとき、二人の目が微かに光ったのが遠目でもよくわかった。