暗闇の恋
*傷つける恋*
郁と別れて虎ちゃんの家に着いたのは8時過ぎだった。
インターホンを押すと慌てたように虎ちゃんが出てきた。
「歩…なんかあったのか?」
無言で首を横に振った。
「電話に出ないから心配したんだぞ!とりあえず入って…。」
家に入るように進めた虎ちゃんの手を止めた。
「虎ちゃん…結婚だけど…」
「ん?どうした?」
「結婚まで、しないの?」
「なっ…どうした?急に?!」
不安だった。
ここまで来る時、自分がしてしまったこと。
自分が決めて選んでしまったこと。
そのことで虎ちゃんを失うことにだけはなりたくなかった。
自分勝手なことはわかってる。
自分の周りにそんなことしてる人がいたら間違いを指摘するだろう。
なのに自分では、間違いを正せない。
こんな想い自分が選んだこととはいえ苦しくてたまらない。
もしかしたら、郁への想いは今日一日一緒にいたから最初の気持ちになってたかもしれないと思った。
なら虎ちゃんに抱いてもらえれば変わるかもしれないと思った。
だから今日本当に大人になりたいと思った。
「だって…そんな雰囲気にならないから。虎ちゃんの事だから結婚まで大事にって思ってるんじゃないかと思って…」
「いや…それは…」
図星の時の声だった。
「やっぱり…」
「とりあえず入って…。」
虎ちゃんは私の腕を引っ張って家へと入れた。
「歩の気持ちは嬉しいけど焦る事ないと俺は思ってる。」
「旅行の時私が拒んだから?」
「それは関係ないよ。変わらず俺は歩を抱きたい。ただ自然にそうゆう時がくると思うんだ。」
「自然にじゃいつになるかわかんないじゃない!」
声に力が入ってしまう。
「歩…なんか今日変だよ。」
「変なんかじゃない!普通だよ!好きな人とそうゆうことしたいって思うのって女の子も一緒だもん!」
「今日は帰って頭冷やたほうがいい。」
「なんでそんな事言うの?」
「何があったか知らないけど、今日の歩はいつもと違う。そんな歩と話しすることはないよ。」
虎ちゃんの声が冷たく響いた。
でも帰る気なんてない。
女にだって意地がある。
言われて、はい。わかりました。って帰れない。
なんて言おうと、虎ちゃんと今以上の関係になりたい。
私はワンピースの胸のボタンを外して行く。
「ちょ…ちょっと歩!待って!」
虎ちゃんは私の手を握り止めた。
「なんで?やっぱり私が子供だから?!」
「いい加減にしろよっ!!」
虎ちゃんが怒鳴る声を初めて聞いた。
ほんの少しの恐怖が生まれた。
「…ごめん…。でも、こんな風にしちゃダメだろ?!」
虎ちゃんの声がいつもの優しい声に戻る。
涙が流れた。
「歩…わかった。今から歩を抱いて俺の物にする。おいで…。」
そう耳元で言うと虎ちゃんは軽々と私を抱きかかえた。
耳が熱くなる。
お姫様抱っこ…小さい時お父さんにされたことのある抱かれ方だった。
でも、お父さんと違う。
太くて逞しい腕に抱かれてると鼓動が早く脈を打ち出した。
こんなんじゃ聞こえてしまいそうなぐらい、ドクドクしてる。
虎ちゃんは無言のまま階段を上っていく。
階段を上がる足が止まった。
二階に着いたのがわかると、一層心臓が早くなる。
少し歩くとドアを開ける音がする。
そっと私をベッドに降ろすと優しく髪を撫でられた。
虎ちゃんがいつもと違う空気を出してる。
男の虎ちゃん…。
「また待ってって言っても今日はやめないけど本当にいいのか?」
「うん…」

虎ちゃんは終始優しく私を壊れ物の様に接してくれた。
私は虎ちゃんの腕の中で大人になった。
クーラーをつけてない部屋は夏の暑さと私たちの熱で頭がクラクラした。
虎ちゃんの汗が体を伝って私に流れる。
重なり合う手に力が入る。
吐息交じりの声が聞こえる。
虎ちゃんの初めて聞く声…愛おしさが溢れて涙になる。
「歩…ごめん…痛い?」
「ううん、そんなんじゃない。」
虎ちゃんは私に色んな気持ちを教えてくれた。
こんな気持ち知らなかった。
痛みより、愛おしさでいっぱいになる。
「虎ちゃん…好き…好き。」
「歩…愛してる。」


「クーラーつけるね。」
そう言って、しばらくしてから虎ちゃんがベッドから起きた。
私はまだ呆然としていた。
「歩…大丈夫?起きれる?ごめん…俺優しく出来なくて…」
「ううん、大丈夫。」
そう言って体を起こした。
下腹部に違和感と少しの鈍い痛みが走る。
「虎ちゃん…ありがとう。」
「なにが?」
「私を愛してくれて…私本当に幸せだったよ。」
「俺こそ、ありがとう。俺の愛受け止めてくれて。」
幸せだった…なのに何度か郁を思い出していた。
虎ちゃんへの好きが愛に変わったのに郁を思い出していた。
冷たい風が体に当たる。
体の熱が少しずつ引いていく。
「晩御飯食べに行けないだろ?出前頼もうか?」
「うん…ありがとう。じゃぁピザがいい。」
「いつものでいい?」
「うん。」
虎ちゃんは電話で注文をしてくれた。
「下に行こうか?それともここで食べる?」
「大丈夫…下に行くよ。」
立とうとしたけど足に力が入らなかった。
すると虎ちゃんがまた私を抱きかかえた。
「重くない?」
「歩が?軽いもんだよ!ちゃんと食べてるのか?」
笑って言う虎ちゃんが男らしく感じた。
さっきもそうだったけど、少しも息が乱れない。
あぁ本当に虎ちゃんって男の人なんだなって思う。
一階に下りてソファに私を座らせてくれた。
「今日どうする?帰れる?」
「泊まってもいい?」
「うん。俺は構わないよ。親父もいつも通り仕事で居ないし明日は生徒もいないから、休みだし。」
「じゃ泊まる。」
私はお母さんに電話をかけた。
9時半を過ぎてるのにまだ電話に出ない。
仕事なのか、運転中なのか…。
留守番電話にメッセージを入れて切った。
それから20分程してからピザが届いた。
同じぐらいに電話が鳴った。
「もしもし歩?晩御飯は?」
「今から食べるとこ」
「虎ちゃんとこなの?」
「うん。」
「そう。あんまり夜更かししちゃダメよ。」
「うん。まだ仕事なの?」
「うん新人の子がねカットの練習したいって、で付き合ってるの。0時周りそうだし歩も虎ちゃんとこにいるから安心だし、店に泊まるかな。」
「そっか、わかった。頑張ってね。」
「ありがとう。虎ちゃんによろしくね!」
電話を切った。
「お母さんなんて?」
「仕事場に泊まるって。それと虎ちゃんによろしくねって。」
「そっか。食べよう。」
取り分けてくれて、手にお皿を持してくれた。
「ありがとう。」
ピザを食べてお風呂に入った。
お風呂で一人になると郁の事を考えてしまう。
今頃なにをしてるんだろう?
もう寝たのかな?
「歩…着替え置いておくね。」
不意の声にビックリして返事が裏返ってしまった。
「ごめん…ビックリさせた?」
「ううん、大丈夫。ありがとう。」
虎ちゃんと一緒にいる時は考えないようにしないといけない。

その日私はお風呂から上がってすぐに眠りに着いた。
深夜過ぎ電話が鳴ったことさえも気付かない程、深い眠りについていた。

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