ハコイリムスメ。
また突っ込んでくる。
芸がないなぁ~、ったく。

「だから遅いってんだよ」

仕方ないから今度は右足でハイキックを1つ。
顎に当たって、ガッと鈍い音がした。

いつの間にか出来ていたギャラリーから歓声がわく。

「いいぞー谷神!」
「最高っす谷神さん!」

なんで俺の名前を?

「や…谷神………!?」

子分たちは俺の名前を聞くと、一斉に後ずさった。
リーダー格にも、怯えの色が浮かぶ。

「い、行くぞ!」

バタバタと逃げていった。


ギャラリーから大歓声。

「あーどーもどーも」

手を振って答える。
さー、帰ってオムライスオムライスっと。

「店長ぉ―――、終わったあ――」
「あの!」

後ろから急に声がかかった。

「へ?」

振り向くと、さっきの彼女がこっちを見ていた。

「なんすか?」
「あ、あの…ありがとうございました!」

………や、べつにアンタを助けたつもりは無いんだけど。



「なにかお礼させてください!」

「や、ホントいいんで」

「せめて名前教えてください!」

「……ホント急いでるんで」

「あたしっ!ハナダレイコって言います!」

「はぁ、そうですか…店長ぉ―――、帰るからな俺ぇ」




あーもー、二度と引き受けない!!
めんどくさくなるだけだ!

……っていうかバカ、俺。


タバコの煙の中を抜けて、通りに出た。
すっかり暗くなっていた。

葵もサトも、きっと腹空かしてる。早く帰らなきゃな。

「あっ………!待って……!」


なおもしつこいハナダレイコは、しばらく俺についてきた。



< 100 / 465 >

この作品をシェア

pagetop