怪奇体験・短編集
寂しそうな彼
この話は、高校生の時の出来事です。

初めての文化祭の準備に遅くまで掛かってました。
私はクラスの出し物の作成が、なかなか前に進まずイライラ。
夕方になってお腹も減ってきて、イライラはピークに。
「何か食べるもの買ってくるね。」と、言って学校の前にあるお店へ。
今みたいにコンビニもファーストフードのお店も無い時代です。
お店でお菓子や飲み物を買って信号待ちしてると、とても大きなバイクを牽いている男性が目の前を通って行きました。
フルフェイスのヘルメットを腕に掛けた男性がこちらを見た時に、胸がドキッとしました。
それは、中学3年の時に、ほんの短い間お付き合いをした井本君だったのです。
ちょっと悪ぶっていた彼は、団体で行動する事は無く、よくいう【一匹狼】って言う言葉が本当に良く似合う人でした。
とても気になる人でしたが、同じクラスになる事も無く、私は転校してしまって会う事も無くなりました。
向こうは私の名前すら知らないだろうと思っていました。

それが、不思議なことに転校してから友達を介して話をするきっかけが出来たのです。
何となく付き合うようにはなったけれど、学校も違うし、家も遠かったし、連絡手段は家の電話しかなかったんです。
でも、電話の内容は「今から映画に行こう!」とか、「今から会える?」とか、いつも「今から・・・」と言う、イキナリな彼でした。
私は、その度に、「ごめん。急に言われても無理。」って返事しか出来ませんでした。
結局、井本君からは連絡も来なくなり、そのまま自然消滅という嫌な終わりかたでした。

その井本君が今、信号の向こうを通っている!
バイクを牽いている彼は足を少し引き摺っていました。
「こけたのかな・・。大丈夫かな。」
信号が変わったけれど、彼に近寄って声を掛ける事は出来ませんでした。
そのまま私は学校に戻って、又、文化祭の準備を始めました。

「やっぱり、カッコ良かったな。あんな大きなバイク乗ってるなんて流石やわ。井本君、バイクが似合うな~。」
ちょっと胸がドキドキして嬉しい気分。
でも、フッと「なんか寂しそうやったな・・。声かければ良かった。」後悔、先に立たずです。

賑やかな文化祭も終わり、日増しに彼の事が気になって来ました。

そんな時、聞かされた話に愕然としました。

「井本君、1ヶ月くらい前にバイク事故で死んだって、知ってた?」

「嘘!私、この間会ったよ。大きなバイク引き摺ってたけど、生きてたよ!」
私の言葉に驚いた友達が、私に人違いだというのですが・・。

私が見た井本君の姿を説明すると、その友達が教えてくれました。

「井本君、最後に会いに来たのかもしれないね。川本さんと付き合う事になったけど、電話しても会えないし迷惑そうだから連絡するの止めるって言ってたんだよ。井本君はあなたが自分と付き合ってくれたけど、本当は嫌だったんじゃないかって。」

そうじゃないのに。
電話が来て凄く嬉しかったけど、親が近くで聞き耳立ててるし・・・。
会いに行きたかったけど、夜なんて外出させてもらえなかったし・・。
好きだったのに。

本当に胸が苦しくなりました。
でも、友達が言ってくれたように、最後に私に会いに来てくれたなら嬉しい。

今でも時々、思い出す事が有るんです。

寂しそうな井本君の顔。






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