刀華
 彦四郎は幼い頃に師の元にやってきた。
 貧しい農家から奉公に出ていた屋敷で、客として訪れた師に貰われたのだ。

 以来、剣に明け暮れ八年が過ぎた。
 鬼一郎も似たような者であった。

 ただ、鬼一郎のほうはその名の通り、大柄で他を威圧するような、堂々たる体躯であったが、彦四郎のほうは、小柄で貧相な身体付きだった。

「お師匠は、そろそろ隠居を考えておられるな」

 道場で、木刀を振っている彦四郎に、鬼一郎が言った。

「お師様も、ご高齢故」

 素っ気なく言う彦四郎を気にもせず、鬼一郎は意味ありげに顎を撫でる。

「お師匠の佩刀、どちらが貰い受けるかな」

 この流派の後継者に、代々伝わる佩刀だ。
 師が二人を呼んだのは、おそらく己の後継者を決めるためだろう。
 近く、立ち合いを命じられるに違いない。

 鬼一郎のほうが兄弟子だが、二人のどちらかに、師は刀を譲るに違いない、というのは、お互いの心にずっとあったものだ。
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