小さなキミと
「そんなことは、今はどうでもいいの。時間ないからね?」


あたしは、この若干生意気な少年に、ゆっくりと言い聞かせるような口調で喋った。


「お姉さんが言いたいのはね、とりあえず今、キミの自転車を借りたいんだってこと」


「えっ」


彼が困惑したように見えたので、間髪入れずにあたしは続けた。


「大丈夫、二人乗りで行こう。お姉さんがこぐよ。キミの中学校まで先に行ったげる」


あたしはどうせ、遅刻だし。


そう開き直ったあたしは、倒れたままの自分の自転車を素早く起こし、カギをかけて道路端に寄せた。


それから道路に投げ出されたスクールバッグを拾い上げたときだ。

彼が小さくつぶやいたのは。


「中学校……?」


あれっ、違ったのか。


「ダボダボの制服着てたからそうだと思ったんだけど。へぇ、じゃあキミ、私立の子なんだ。制服は新調しただけか」


あたしはそう勝手に解釈して、彼の自転車に手を伸ばす。


が、ハンドルに触れる前に、突然彼に腕を掴(つか)まれた。


「それはどういう意味ですか、“お姉さん”」


さっきよりももっと“お姉さん”を強調した彼は、目を細めてジッとあたしを睨みつける。


どういう意味、ってそのまんまの意味だけど。


っていうかさっきのは独り言みたいなものだから、聞き流してくれていいんだけど。


そう思ったあたしだけど、彼の顔がどんどん仏頂面になっていくので、説明することにした。

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