小さなキミと
「あたし、服部より14㎝もデカいけど……いいの?」


涙が落ち着いてきた頃、あたしは一番の懸念をぶつけた。


すると、カチコチだった服部の顔が一気に緩んだ。


「なんだ、そんなことかよー」


服部は腰掛けていた誰かの机から飛び降り、あたしの手を取って適当なイスに座らせた。


「こうしたらオレのがデケェじゃん。
つーか身長とか、今さらどーでもいいっつの」


呆れてそう言ったかと思えば、今度はムッとして言葉を足した。


「なに、お前はチビは嫌なの?」


「そんなワケないっ」


あたしが反射で答えると、服部はニッと笑った。


「言ったな?
……まぁ大丈夫か。お前バカだから、あーゆう器用な小細工できなそうだもんな」


言いながら、服部はどこか遠くを見る目になっていた。


あーゆう器用な小細工、っていうのはきっと、中学時代のあの子のことを指しているんだろう。


だけどバカって。もうちょっと言い方があるでしょうに、と心の中でぶつくさぼやく。


いわゆる照れ隠しというやつだ。


すると服部が、ふと真顔に戻ってジッとあたしを見つめてきた。


ドギマギする暇もなく、あたしの肩に手が乗った。


それはもちろん服部の手。


「……オレの彼女になっていいなら、目閉じて」


────これ以上に無い殺し文句だった。


服部が絶対言わなそうな言葉ランキングがあったら、間違いなくナンバーワンでしょコレ。


というくだらない感想が沸騰寸前の頭を走ったが、それを本人に言うほどバカではない。


目線の先の服部は、今までで一番真剣な表情で、でもやはり童顔で子どもっぽい顔立ちだった。


だれどあたしにとっては、服部はいつだって誰よりも“男”だった。


見上げる体勢になっているのが、余計にそれを自覚させた。

< 178 / 276 >

この作品をシェア

pagetop