小さなキミと
程なくして、服部が自転車置き場に駆け込んで来た。


「ごめん遅くなった!」


肩で息をする服部を一目見て、あたしはあえなく悩殺された。


微妙に乱れた制服と、エナメルのデカバッグからはみ出た衣類その他諸々が、

彼が相当急いで来てくれたのだということを語っていた。


もぉそれ反則。


あたしばっかりドキドキすんの悔しい……。


悔しいけど嬉しい。


たとえ汗だくだろうが、カッターシャツのボタンを掛け違えていようが。


「女子ってやっぱ終わんの早ぇーよな」


言いながら、服部はデカバッグを自転車のカゴに押し込んだ。


あたしのシルバーの自転車の隣に停まった、後ろのライトが割れたままの赤い自転車に。


「どうする? 歩いてく?」


一瞬意味が分からなくて首を傾げる。


そんなあたしに、服部は少しだけ呆れたような顔をした。


「自転車押して歩いて帰ろーかって提案してんの。でも時間かかるから乗ってってもいいけど」


「歩くッ!」


……我ながらなんて可愛くない答え方。


あたしはつくづく不器用だと思う。


「ムキになるなよ」

と笑いながら嗜(たしな)めた服部を、腹いせに恨みがましく睨み付けた。


もっと緊張しやがれコノヤロウ、と念を送るも逆効果。


「あー、拗ねた?」


こんな可愛すぎる反撃を食らっては、照れるなと言うほうが無理だ。


出だしから、完全に服部にペースを持っていかれたあたしだった。

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