小さなキミと

真夏の駆け引き






服部との帰り道、

あたしは自転車を押しながら、彼と横並びに並んで歩いていた。


いつもは自転車で通り抜けるだけの、ただの田んぼだらけの田舎道だが、

隣に服部がいるだけで何だか素敵な景色に思えた。

とはいえ昨日は究極に腹ペコだったので、この道は服部なんぞお構いなしに、いつも通りのスピードで通り抜けたのだった。


今日は昨日と違って、会話ができる余裕がある。


最初は無難に部活の話から始まった。


練習はあんな事をしてきつかった、とかそういう当たり障りのない内容だ。


それがどう転んでか部内の色恋沙汰に変わり、結局朝の話題を蒸し返すに至った。


「じゃあ何、アンタあたしが泣いたことまで喋ったワケ!?」


「オレだって喋りたくて喋ったワケじゃねーし!」


既に喧嘩腰のかけ合いに発展していたあたしたちは、やはり相変わらずだった。


だけど前と違うのは、


「つーか、これで誰もお前のこと狙わなくなったからいーの!」


────服部がこんな台詞を平気で言うようになった。


「なっ、なにそれ! まるであたしがモテモテみたいに!」


「ああそーだよお前はもっと自覚しろバーカ!」


服部は、たじろぐあたしなんてお構いなしに畳みかける。


「だからすげームカついた! 吉岡とか……八神とか」


最後だけ、語気が弱かった。


吉岡とか八神とか。それってつまり、


「妬いてるの?」


「うるさいッ!」


即答で返事が返ってきた。しかも否定しない。


「やっぱ妬いてるー!」


顔を覗き込めば、服部は耳まで真っ赤だった。

< 196 / 276 >

この作品をシェア

pagetop