小さなキミと
『オレ眠いんだけど……』


間をおかず、あくびのような声が電話の奥から聞こえてきた。


もしかしたら服部は既に寝ていたのかもしれない。


もしかしなくても、あたしの電話で服部を起こしてしまったのかも。


でも喋りたい。


楽しみな気持ちを共有したくて。


────眠れなくなるくらいに楽しみなのは、あたしだけ?


「……じゃあ5分だけ。5分で切るから」


言ったそばからしまったと思った。


自分の声が、自分でも分かりやすく拗ねた風に聞こえたからだ。


「いや何でもない! やっぱいいや、あたしもう眠いし切るね!
じゃあ明日ねおやすみ!」


カラ元気でまくし立てて一方的にプツンと切った。


そしてやはり、やってしまった後で後悔する。


「……ごめん服部」


あたしの声は当然もう届いていない。


……あたしって、つくづく面倒臭い女だな。


1人、自室のベッドで落ち込んでいると、手元でピロンと軽やかな効果音が鳴った。


飽きるほどに聞き慣れ過ぎた、LINEの通知の音。


何の気なしに視線を落とし────服部からだと分かって飛び上がった。


『明日しんどくなるから早く寝ろよ』


読んだ瞬間、胸がキューッと締め付けられた気がした。


一見何てことない文章が、たまらなく愛しい。


いきなり電話して一方的に切ったのはこっちなのに、あたしの心配をしてくれたんだ。


「ごめん」「心配ありがと」「おやすみ」


とりあえず大事な事だけを何回かに分けて送信した。


服部から返事が来たのは、あたしがスタンプを選んでいる時だ。


つまりすごく早かった。


『オレも明日すげー楽しみにしてる』


うわあっ、とうっかり叫びそうになった。


服部のヤツ……本当に不意打ちが得意なんだから。


へ、返事! 返事しなきゃ。


ドキドキ脈打つ心臓を押さえつつ画面を切り替える間もなく、服部から追加でメッセージが。


『返事不要』


読み終わる前に、また追加で短い文字が画面に浮かぶ。


『寝る』『おやすみ』


「はぁーーーー?」と思わず声に出た。


言い逃げかよあの野郎!


服部の優しさに気づいたのは、それからしばらく経ってからだった。

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