小さなキミと
時は数分程前にさかのぼる。


『……あたしの彼氏』


戻って来た剛がオレを指してそう言った途端、オレは剛の母によって店内に引きずり込まれていた。


『リキくん、ちょっとちょっと!
見て、涼香が初めて彼氏連れて来たんだよ! この子!
めちゃくちゃ可愛くない?』


厨房にいる剛の父親に向かって投げられたであろうその高音ボイスは、騒がしい店内でもよく通った。


『あの泣き虫涼ちゃんに彼氏か!』


『リキさんにとっちゃショックなんじゃねぇのか?』


『なんだぁガキみてぇな坊主だなオイ』


昔からの常連らしきほろ酔いの客のオッサンたちが次々と好き勝手に騒ぐ中、

『アイツに彼氏なんて出来る訳ねぇだろ!』

何人かのスタッフが集まっていた厨房の中で、ひときわ巨大な背中の人物がわめくようにそう言った。


『だから、涼香が連れて来たんだってば! ちょっとこっち見てよ!』


剛の母が必死で呼びかけるけれど、巨大な背中は一向に振り返らない。


頑ななリキさん(多分剛の親父)を、常連客がからかって場はいっそう盛り上がった、けれど。


完全にアウェーの場に1人放り込まれたオレの身にもなってくれ。


本当に色々な匂いの煙が立ち込める店内で、オレは気まずくて仕方がなかった。


『ちょっと! ママ何やってんの!?』


ついには酒を勧められどうするべきか決めかねていた時、ようやく剛が店内に入って来た。


『いい加減にして! あたしも服部も、今すぐにでも課題やり始めないとヤバいんだって!』


今度は剛に引っ張られるようにして、オレは店の奥へ連れて行かれたのだった。

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