マネー・ドール -人生の午後-
 四月も半ばを過ぎて、私も慶太も、やっと仕事が落ち着いてきた。
ずっと事務所に寝泊まりしてた慶太は、私の作った夕食を美味しそうに食べて、もうコンビニ弁当は飽きたって、笑いながらビールを飲んでる。
 そして、もうすぐゴールデンウィーク。私も慶太も、お休みが取れたものの、お互い、何をしたらいいかわかんない。仕事人間って、悲しいわね。

「バーベキュー?」
「うん、どう? 泊まりでね、いいキャンプ場があるんだよ」
「二人で?」
「まさか。中村がさ、誘ってくれたんだよ」
「中村って……ああ、あの中村くん?」
へえ、なんだか久しぶり! そういえば、私、学生時代の友達なんて一人もいないし、そもそも、プライベートで遊びに行ける友達なんて、一人もいない。
「……杉本も、来るんだ」
えっ……将吾も?
「中村と杉本、今でも仲良くって、家族ぐるみで遊んでんだって」
「へえ……そうなんだ……」
私の戸惑った顔を見て、慶太は、ちょっと、残念そう。
「やっぱ、断るね」
どうしよう……慶太は、楽しみにしてるみたいだし……それに、将吾と会えば、こんな気持ち、なくなるかもしれない。
うん、きっと、会ってしまえば、奥さんにも、会ってしまえば、きっと。
「ううん、行こうよ」
「いいの? 杉本も、来るんだよ」
「もう二十年も前の話よ。将吾だってもう、結婚してるんだし、普通に、幼馴染として会えるわ」
「そう、よかった。中村も杉本も、真純に会いたがってるんだ」
そうなんだ。なら、いいよね。私と将吾は、幼馴染。それで、いいよね。私もそれで、整理できる。
「そういえばさ、昔、バーベキュー行ったよな。塾のみんなで」
ああ、行った行った。将吾がなんだかモテちゃって、私、ヤキモチ妬いたっけ。
うふ、懐かしい。なんだか、学生時代にもどったみたい。

 私は純粋に、懐かしい友達との再会が、待ち遠しくなっていた。

 でも、それは、間違いで、私は、時間を超えて、自分を失っていく。
 私は、戻るはずのない時計を、戻し始めていた。
< 13 / 224 >

この作品をシェア

pagetop