マネー・ドール -人生の午後-

(4)

 時計を見ると、一時を過ぎていた。真純、どうしてるかな……ちょっと遅くなったし、電話してみようかな。
「真純? 今から帰るよ。変わりない?」
 返事はなくて、その代わり、真純のすすり泣きが聞こえてきた。
「おい、真純! どうしたんだ? 何かあったのか?」
「……違うの……なんかね……急に……」
「急に? どうしたの?」
「さ、さびしくなって……」
「どうして電話しないんだよ」
「……お仕事の邪魔になるから……」
「そんなこといいんだよ! とにかく、今から帰るから。……車だから、切るけど、大丈夫?」
「……慶太……早く帰ってきて……」
 弱々しい真純の声に、俺はもういてもたってもいられない。
 逸る気持ちを抑えられず、久々にムリな運転で、マンションの駐車場につっこんで、エレベーターのボタンを連打をして、ドアまでダッシュ!
 
「真純!」
 でも、リビングに、真純はいなかった。
テーブルには真純がいつも買ってる、食べかけの菓子パンと、冷めたコーヒーがあって、テレビもついて、携帯も、置きっぱなし。
「真純? ただいま」

 寝室と、真純の部屋を覗いたけど、やっぱり真純はいなかった。
 俺の部屋かな? そう思って覗いたけど、やっぱり真純はいない。

 どこに行ったんだろう……まさか……

 絶対にそんなはずはない。絶対にありえない。
 恐る恐る、ベランダの下を見下ろした。
 もちろん、ベランダの下には何もなくて、膝がガクガクして、その場にへたり込む。
「そんなわけないよな……」
 一人で呟いて、外に探しに行こうと、玄関に出ると、エレベーターホールからから真純の声が聞こえた。

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