マネー・ドール -人生の午後-
「あ、お薬飲むの、忘れてた」
「ダメだよ、ちゃんと飲まないと。化膿するかもしれないし……それにさ」
「何?」
「こんなパンばっかりじゃ、ダメだよ。ちゃんと食べないと。真純、一人だとご飯、ちゃんと食べてないだろ?」
「……面倒なの」
「料理は上手いのに」
「食べてくれる人がいればね、作るんだけど」
「じゃあ、これからは弁当作ってよ。夜も、できるだけ家で食べるから」
「どうしたの、急に」
「真純の体が心配なんだよ。今まで、結構ムリしてだろ?」
「慶太も、ね」
 そうだな……俺たち、結構ムリしてきたよなぁ。肉体的にも、精神的にも。
「でも、あんまり食べると太っちゃうし」
「そんなの気にするなよ。痩せすぎだよ、今は」
と、いいながら、豊満なおっぱいをまた見てしまって……
「また見てる」
「いいじゃん! 夫の特権!」
 ちょっと汗ばんだタニマに顔をうずめて……ああ、幸せ! 藤木、どうだ、羨ましいか!
「もう! 暑い!」
「もっと暑くしようよ」
「まだ明るいよ」
「いいじゃん……」
 真純、やっぱり俺は、お前が好きだ。お前の過去とか、そんなのさ、もうどうでもいいんだ。昨日のことすら、どうでもいい。
「好きだよ……」

 もしかしたら、このソファで、杉本も同じことをしたのかもしれない。
 俺も、過去には女を連れ込んだ。あのベッドで、真純を裏切ったこともある。

 いろんなことが頭の中をぐるぐる回って、もうどうでもよくなって、腕の中の真純を愛して、幸せだな、俺って。
「カワイイよ」
「明るいと、やっぱり恥ずかしいね」
「事務所でもしちゃいそう」
「ダメだよ! そんなの……」
「いいの。俺の会社だから」

 クスクス笑う真純。シクシク泣く真純。一生懸命話す真純。怒ってる真純。冷静な真純。俺に感じてくれる真純。
どの真純も、本当の真純で、どの真純も好きだ。
でも、一番好きなのは、やっぱり……

「私のこと、好き?」

 これを聞く時の、真純かな。
「好きだよ」
「私もね、慶太のこと、好き」
「両想いだね」
「うん」

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