マネー・ドール -人生の午後-
 二か月ぶりに見た田山は、かなりのイメチェン! サラリーマンというより、新進のデザイナーって感じになっていた。
「ひさしぶりだね! ねえ、なんか、感じ変わったね」
「部長も……じゃなくって、真純さんも、髪、似合ってます。長い髪より、俺は今のスタイルの方が好きだな。真純さんの可愛らしさが、引き立ってますね」
 出た……山内がここにも……そうか、山内のことがどうしても好きになれないのは、言動がコイツに似てるからか……
「やあ、田山くん。久しぶりだね」
 田山は俺の顔を見て、あからさまに不機嫌な顔をした。
「ご無沙汰しております、佐倉さん」
「どうしたの、なんかモデルみたいなカッコして」
「佐倉さんは相変わらず、リッチなスタイルですね。士業って感じがします」
 俺の嫌味を真っ向勝負で受けとめて、明らかな嫌味を投げ返し、田山は名刺を出した。
「先月、こちらに移ったんです。そのご挨拶に」
「そう、それは、わざわざご丁寧に」
「仕事、どう? 慣れた?」
 真純は名刺を見て、ちょっと、上司の顔をした。
「格好はついてきました。デザインも、ちょっとやらせてもらえてるんです」
「そう、よかったね!」
「真純、知ってたの?」
「うん、メッセージくれてたから」
 メッセージ! うう、俺はああいうの、ホントに苦手だ……
「なんだか今の田山くん、私の知ってる田山くんじゃないみたい」
「そうですか?」
「うん、とってもかっこいい!」
 か、か、か、かっこいい! そんなこと、俺の前で堂々と……
「ねえ、そう思わない? スーツより、こういう感じの方が似合ってるよね?」
俺に聞くな!
田山はニヤっと笑って、俺の事務所を見渡した。
「しかし、ずいぶん、……レトロな事務所ですね」
「そうなの。あ、いいことおもいついちゃった! ねえ、田山くんのところでリフォームしてもらおうよ!」
はあ? なんで!
「ね、いいでしょ?」
 真純の上目遣い……カワイイ……
「うーん……まあ、そうだな……」
「オフィスデザインにも力を入れているんです。ご要望の通り、仕上げますよ。ぜひ、お任せください」
「そうだよねえ。慶太、いいよね?」
 確かに、『中村タクシー』を見て、ちょっと考えないと、とは思ってたからなあ。
「まあ、見積もり、出してよ」
「はい、ありがとうございます」
「田山くん、よろしくね!」
「では、後日、改めて打ち合わせに参ります」
「楽しみだね」
「また一緒に仕事ができると思うと、嬉しいです」
 田山は、本心から、そう言ってるようだった。
こいつ、マジでまだ、真純のこと好きなんだなあ。真純はどうなんだろう。田山のこと、どう思ってるんだろう。今はもう、上司と部下って関係じゃないし……
 
 二人の会話を聞きながら、俺はちょっと、田山が羨ましくなった。
 俺の知らない十年間の真純を、田山は知っている。いったい、真純はどんな上司だったんだろう。

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