マネー・ドール -人生の午後-

(3)

「慶太くん、すぐに来てくれ」
 いつも冷静な松永さんが、珍しく、動揺していた。
 何があったのか、急いで親父の事務所へ行くと、兄貴と松永さんが、待ち構えていた。
「慶太! 遅いじゃないか!」
「仕事してたんだよ。なんかあったの?」
青い顔で震える兄貴の代わりに、松永さんが言った。
「特捜が入るらしい」
「特捜? いきなり? 松永さん、ガセじゃないですか? そんな情報、俺のところにもありませんよ」
でも、松永さんは、ため息をついた。
「リークがあったらしい」
「リーク? なんの?……処理は、間違いありませんよ」
 ちょっと、と言って、松永さんは、俺を連れて、秘書室のドアを開けた。
「僕がいけなかった」
「どういうことですか」
「悠太くんがね……献金を……」
「献金? いつですか」
「三か月前にね、僕も知らなかった」
 やっぱり、兄貴はバカだ。なんてことをしてくれたんだ。金の扱い方も知らないくせに、何やってんだ。
「いくらですか?」
「五千」
「五千万!」
「ごまかしようもない」
「まさか……トラップ、ですか?」
「たぶんね。やられたよ」
「方法はあるでしょう。考えます」
「いや……もう、無理だ。慶太くん、今から、僕の言う帳簿を作れるかい?」
その言葉に、俺は、息をのんだ。
「ダメです。そんなこと、ダメです」
「いいんだ。これで、悠太くんも、先生も、君も……全てうまくいく」
被る気だ。松永さんは、全部……
「親父は、なんて?」
「……先生は、僕に任せてくださった」
なんで、笑うんだよ……松永さん、それ、あなたに責任押し付けてるだけですよ!
「便宜は払ってもらえる手筈だ。起訴まで持ち込むだけの証拠はないし、もしそうなったとしても、先生のお力で、すぐに釈放だ。心配しなくていい」
「そんなの、アテになりませんよ! 松永さん、俺がなんとか……」
 だけど……松永さんは、声を荒げた。初めだった。そんな声を荒げた松永さんを見るのは……
「君になど、どうにもできる問題じゃない! 僕の指示に従いなさい!」
 悔しいけど、俺にはもう……俺の力じゃもう……どうしようもない。

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