マネー・ドール -人生の午後-
「田山くんと、行かなかったんだね」
「うん」
「……よかったのか?」
「うん」
「真純、俺は……」
「私ね、考えたの」
この生活に、未練があるわけじゃない。お金に、未練なんて、もうないんだ。でもね、あなたがしようとしていること、私は……
「松永さんは、望んでないと思う」
慶太は黙ってる。俯いて、黙ってる。
「松永さんは、命をかけて、お父様や、慶太や……私を守ってくれたんだよ」
「だけど……」
「慶太の気持ちはわかるの。私だって、松永さんは本当のお父様だと思ってる。悔しいの。本当に悔しい。でも……だから、松永さんの気持ちに、報わなきゃ、いけないと思うの」
「真純……」
「今の生活を失うことに、躊躇も未練もないの。でもね……松永さんが、せっかく守ってくれたものを……無駄にはしたくない」
慶太は、つらそうに、目を閉じた。
本当に、つらいよね……だって、松永さんは、私たちにとって、本当に、大切で、信頼できる、たった一人の『オトナ』だったんだから。
「松永さんは、私たちに、教えてくれたんだと思う。私たちがしてきたこと、私たちの生き方、そして、これから私たちが生きるべき道、私たちが失ってしまったものの大きさ……松永さんは、命をかけて、私たちに、本当の人生の意味を、教えてくれたんじゃないかって、思うの」
「恥じない生き方をしろって……もう一度生きたいを思う人生を生きろって……そう言われたんだ。このままじゃあ、俺……やっぱり、恥ずかしいんだよ。こんないい加減な、誰かを傷つけてばかりいた俺の生き方、もう終わりにしたいんだよ」
隣で俯く慶太の顔は、初めて見る顔だった。
こんなに真剣に、悲しみにくれた、慶太の顔は、初めてだった。
「慶太がそうするなら、私も一緒にそうするわ」
「つらい思いをすることになる。お前だけは傷つけたくないんだ」
「ねえ、慶太。私ね……あなたのこと、傷つけてばっかりだった。それなのに、あなたは私のこと、ずっと大切にしてくれてた。わかっているのに、それでも私、またあなたを裏切るようなことを、何度もしてしまって……本当にごめんなさい」
「そんなこと、もういいんだ。俺はお前が隣で笑っててくれればそれで……」
慶太は、ふと顔を上げて、私の顔を、じっと見つめた。
「それで……いいんだ」
「私も、同じだよ。私も、慶太の隣にいられれば、それでいいの。ずっと二人でね、こうやって、いられればそれで、幸せなの」
「金がなくてもか? 贅沢できなくてもか? 貧乏になってもいいのか? ブランドのバッグも、ダイヤのネックレスも、買えなくなってもか?」
「うん、いいの。慶太さえいてくれたら、それでいいの」
「真純……こんな俺で、いいのか?」
「そんな慶太がいいの」
チェストの上の、松永さんは、黒いフレームの中で、ずっと優しい目で見つめてくれている。ずっと、変わらずに、私たちを、ずっと……
「それが……正しい選択なのかな……」
「正しくは、ないのかもしれない。何が正しいのかなんて、わかんない。ただ、私は……松永さんに報いたいの。松永さんの想いを、大切にしたいの」
「うん」
「……よかったのか?」
「うん」
「真純、俺は……」
「私ね、考えたの」
この生活に、未練があるわけじゃない。お金に、未練なんて、もうないんだ。でもね、あなたがしようとしていること、私は……
「松永さんは、望んでないと思う」
慶太は黙ってる。俯いて、黙ってる。
「松永さんは、命をかけて、お父様や、慶太や……私を守ってくれたんだよ」
「だけど……」
「慶太の気持ちはわかるの。私だって、松永さんは本当のお父様だと思ってる。悔しいの。本当に悔しい。でも……だから、松永さんの気持ちに、報わなきゃ、いけないと思うの」
「真純……」
「今の生活を失うことに、躊躇も未練もないの。でもね……松永さんが、せっかく守ってくれたものを……無駄にはしたくない」
慶太は、つらそうに、目を閉じた。
本当に、つらいよね……だって、松永さんは、私たちにとって、本当に、大切で、信頼できる、たった一人の『オトナ』だったんだから。
「松永さんは、私たちに、教えてくれたんだと思う。私たちがしてきたこと、私たちの生き方、そして、これから私たちが生きるべき道、私たちが失ってしまったものの大きさ……松永さんは、命をかけて、私たちに、本当の人生の意味を、教えてくれたんじゃないかって、思うの」
「恥じない生き方をしろって……もう一度生きたいを思う人生を生きろって……そう言われたんだ。このままじゃあ、俺……やっぱり、恥ずかしいんだよ。こんないい加減な、誰かを傷つけてばかりいた俺の生き方、もう終わりにしたいんだよ」
隣で俯く慶太の顔は、初めて見る顔だった。
こんなに真剣に、悲しみにくれた、慶太の顔は、初めてだった。
「慶太がそうするなら、私も一緒にそうするわ」
「つらい思いをすることになる。お前だけは傷つけたくないんだ」
「ねえ、慶太。私ね……あなたのこと、傷つけてばっかりだった。それなのに、あなたは私のこと、ずっと大切にしてくれてた。わかっているのに、それでも私、またあなたを裏切るようなことを、何度もしてしまって……本当にごめんなさい」
「そんなこと、もういいんだ。俺はお前が隣で笑っててくれればそれで……」
慶太は、ふと顔を上げて、私の顔を、じっと見つめた。
「それで……いいんだ」
「私も、同じだよ。私も、慶太の隣にいられれば、それでいいの。ずっと二人でね、こうやって、いられればそれで、幸せなの」
「金がなくてもか? 贅沢できなくてもか? 貧乏になってもいいのか? ブランドのバッグも、ダイヤのネックレスも、買えなくなってもか?」
「うん、いいの。慶太さえいてくれたら、それでいいの」
「真純……こんな俺で、いいのか?」
「そんな慶太がいいの」
チェストの上の、松永さんは、黒いフレームの中で、ずっと優しい目で見つめてくれている。ずっと、変わらずに、私たちを、ずっと……
「それが……正しい選択なのかな……」
「正しくは、ないのかもしれない。何が正しいのかなんて、わかんない。ただ、私は……松永さんに報いたいの。松永さんの想いを、大切にしたいの」