マネー・ドール -人生の午後-
翌朝、目が覚めると、慶太はもういなくて、リビングに行くと、ソファで、コーヒーを飲んでいた。
「おはよう、慶太」
「おはよう、真純。コーヒー、飲む?」
「うん」
慶太の淹れてくれたコーヒー。久しぶりね。やっぱり、味はよくわからないけど、こうやって二人で飲むと、やっぱりおいしいね。
「告発は、しない」
「うん」
「でも……仕事は、やめる。廃業して、山内に渡す」
「うん」
「いいのか?」
「うん」
「ここを、出て行くことになるよ」
「構わないわ」
慶太のサインだけが入った離婚届。こんなの、もう、絶対見たくないの。
「これ、捨てていい?」
「真純……俺はもう……贅沢、させてやれないよ……」
「いいって昨日言ったじゃん。それにね……なんだかこの生活も、疲れちゃった」
それは、正直な気持ちだった。私はもう、このセレブ生活に、疲れていた。着飾って、愛想を振りまいて……上辺だけの、この生活。
「……そうか……」
丸めた離婚届は、ゴミ箱に吸い込まれるように入って、カサって微かな音がした。
「それから、これ」
田山くんから返してもらったマリッジリング。
「ずっと夫婦でいようって、約束したじゃん」
「そう、だったね」
慶太は、ふっと笑って、私の肩を抱きよせた。その腕は、細くて、華奢で、香水の匂い。
「真純、愛してるよ」
「私も、愛してる」
私たちは、キスをする。あのホテルの部屋でしたキスは、とっても悲しかったけど、今のキスはね……慶太、幸せなの。
「もう離さないでね」
「ああ、もう、絶対、離さない。離さないからな、真純……」
なんだか、ふわふわと、体が軽くなった。
重い荷物を下ろしたみたいに、寒い外から帰って、熱いお風呂に入ったみたいに、疲れきった体を、ふかふかのベッドに投げ出したみたいに……
なんだか、ねえ、慶太……私たちは……疲れちゃったね……
オッサンとオバサンだから、なんだかもう、疲れちゃったよね……
慶太、私たち……急ぎ過ぎていたね……
「おはよう、慶太」
「おはよう、真純。コーヒー、飲む?」
「うん」
慶太の淹れてくれたコーヒー。久しぶりね。やっぱり、味はよくわからないけど、こうやって二人で飲むと、やっぱりおいしいね。
「告発は、しない」
「うん」
「でも……仕事は、やめる。廃業して、山内に渡す」
「うん」
「いいのか?」
「うん」
「ここを、出て行くことになるよ」
「構わないわ」
慶太のサインだけが入った離婚届。こんなの、もう、絶対見たくないの。
「これ、捨てていい?」
「真純……俺はもう……贅沢、させてやれないよ……」
「いいって昨日言ったじゃん。それにね……なんだかこの生活も、疲れちゃった」
それは、正直な気持ちだった。私はもう、このセレブ生活に、疲れていた。着飾って、愛想を振りまいて……上辺だけの、この生活。
「……そうか……」
丸めた離婚届は、ゴミ箱に吸い込まれるように入って、カサって微かな音がした。
「それから、これ」
田山くんから返してもらったマリッジリング。
「ずっと夫婦でいようって、約束したじゃん」
「そう、だったね」
慶太は、ふっと笑って、私の肩を抱きよせた。その腕は、細くて、華奢で、香水の匂い。
「真純、愛してるよ」
「私も、愛してる」
私たちは、キスをする。あのホテルの部屋でしたキスは、とっても悲しかったけど、今のキスはね……慶太、幸せなの。
「もう離さないでね」
「ああ、もう、絶対、離さない。離さないからな、真純……」
なんだか、ふわふわと、体が軽くなった。
重い荷物を下ろしたみたいに、寒い外から帰って、熱いお風呂に入ったみたいに、疲れきった体を、ふかふかのベッドに投げ出したみたいに……
なんだか、ねえ、慶太……私たちは……疲れちゃったね……
オッサンとオバサンだから、なんだかもう、疲れちゃったよね……
慶太、私たち……急ぎ過ぎていたね……