マネー・ドール -人生の午後-
 オフィスに戻って、いつものように仕事をして、家路につく。
当たり前の生活。毎日毎日、もう何年も、この電車で帰ってる。

 予約していた美容院に寄って、カットと、カラーと、頼んでもないけど、ネイルと。
「少し明るめにしますか? ピンク、いれましょうか」
「うーん、若作り、しすぎじゃない? 痛々しいのは嫌なのよ」
「全然。白髪も目立ちにくくなりますし、きっとお似合いですよ。これから夏ですから、少し明るめの方が、軽やかでいいと思います」
「そう、じゃあ、おまかせする」
 結局、おまかせ、で、髪はピンクブラウンに染めて、ネイルは白と水色のフレンチにして。
ちょっと……頑張りすぎ感、出てないかしら。
 
「おかえりなさい」
「ただいま……あれ? なんか、髪の色、変えた?」
「うん。どう? 若作りしすぎ?」
「全然、似合ってるよ。それくらい明るいほうがいいよ。真純は色白だし。あ、ネイルもいいね。夏って感じする」
 世の中には、妻の髪型や口紅の色が変わっても気づかない夫が多いらしいけど。
慶太は、ちょっとしたことでも、こうやって、褒めてくれるの。
「ありがと」
 慶太のキス。まるで恋人同士みたい。夫婦っていうより、恋人同士ね、私達。

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