マネー・ドール -人生の午後-

(3)

 出社して、デスクの上の山のような書類を片付けていると、携帯が鳴った。
「今どこや」
「会社」
「広島、帰ってないんか」
「帰らないよ」
「真純、おばさん、危篤やってゆうたやろ」
「……忙しいの。切るよ」
「気持ちはわかるけど、それでも、親は親や」
「私に親なんて、いない」
「最期かも、しれんぞ。それでも、ええんか?」
あなたまで……将吾、あなたまで、そんな風に!
「しつこいわね! あの人が死のうが生きようが、私には関係ないの! いっそ、早く死んでくれたほうがせいせいするわ!」
思わず荒げた声に、みんなの手が止まった。
「と、とにかく、忙しいの。もうほっといて」

 電話を切った私の前に、田山くんが立っていた。
「部長? 何か、あったんですか?」
「何でもないの。ごめんなさい」
みんなの心配そうな視線を通り抜けて、私はテラスへ行った。

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