マネー・ドール -人生の午後-
「ねえ、この人、知ってる?」
ベッドで、小宮山さんの名刺を見せた。
「小宮山……知らないなあ。どうかしたの?」
「うん……なんかね、常務が連れてきたんだけどね……あ、常務っていうのは、元企画部長で、私の恩師っていうか……よくしてもらったの、昔は」
どうしよう。慶太になら、話していいよね。っていうか、話すべきよね。
「独立するっていうの、常務」
「独立?」
「謀反、になるのかな」
「なるほど……こいつが、それを後ろ盾してるってわけか」
「私をね、社長にするって言うの」
慶太は、ちょっと、ビジネスな顔になって、表情を曇らせた。
「あんまり、いい話には聞こえないな」
「そうだよね……どうしようかと思って……」
「迷うならやめたほうがいい」
「でも、このままいても、左遷されるっていうの」
「左遷? なんで」
「たぶん、常務も左遷されるんだと思うの。だから、こんなことになったんだと思う」
「派閥ってこと?」
「簡単に言えば。私がかなり利益上げたことで、企画部の力が強いの。常務は元々私の上司だから、なんていうか……」
「なんとなく、わかる」
「私もね、他部署を抑えるようなこと、してた時期があったの。よくなかったって、今は思ってるけど……その時のこと、根に持ってる人は、当然、いてね」
 慶太は、一生懸命、私の話を聞いてくれて、理論的に、整然とした答えをくれる。
 嬉しいんだけど……今はね……ちょっと違うの。そうじゃなくて、あの夜の田山くんみたいに、『そんなに優しくなくていいんですよ』って、そんなふうに、言って欲しい時があるの。
『そんなに、頑張らなくていいよ』って……甘えてるのかな、私。

「小宮山ね、調べてみるよ」
「うん……ありがとう」
「真純の力になるから」

 足りないもの……たぶん、それは……

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