マネー・ドール -人生の午後-
「お待たせ」
六時五十五分に、慶太がロビーにやってきた。私達は、腕を組んで、微笑んで、皆に挨拶する。言われることは、相変わらず一緒だけど、もう悪い気はしない。楽しく笑って、ご飯も美味しく頂いて、あっという間に、時間は過ぎた。

「車は?」
「会社に置いてきた」
私達はタクシーに乗って、家へ帰る。
「疲れた?」
「ううん」
タクシーの中でも、手をつないで、私は慶太の肩にもたれて……慶太の匂い。うん? 香水、今夜はきつめ? あ、ちょっと酔ってるかな? 頭がフラフラする。

「真純、ついたよ」
うん……寝ちゃってたんだ。
気がつくと、もう、マンションの前で、私達は、手をつないで、タクシーを降りた。

 ドアを開けると、家の中は冷え切ってて、慶太がエアコンをつけてくれた。
「ファンヒーター、買おうか」
「うん。すぐあったかくなるやつ」
寒そうにする私の手を握って、体を抱き寄せて、キスをする。
 慶太のキスは、優しくって、オシャレな感じがする。キスにオシャレとか、おかしいかな? でも、そんな感じなの。もう、忘れかけてるけど、将吾のキスは、もっと、なんていうか、情熱的で、時々、痛いくらいで、……若かったからかな。あ、また……慶太とキスしながら、将吾のこと考えたりして……どうしちゃったんだろう、私……。

「お風呂、入れてくるね」
 時々、慶太といるのが、ちょっとつらい時がある。慶太が悪いわけじゃない。私が、悪いの。慶太のこと、好き。ほんとに、好き。優しいし、もう、浮気もしてないし、楽しいし、頭もいいし、オシャレだし、イケメンだし。何より、私のこと、大切にしてくれてるって、すごくわかる。わかるんだけど……何か、足りない。何かは、わからないけど……

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