マネー・ドール -人生の午後-
「真純、俺……真純のこと、ひとりじめしたい」
「私は、慶太だけのものだよ」
「杉本のこと……好きなんだろう、まだ……」
 いいって言ったけど……好きでいいって、俺、言ったのに。やっぱり、イヤなんだよ。真純、俺、やっぱり、お前には俺だけを愛してほしいんだ。
「好き、なのかな……わかんない……ただ、思い出しちゃうの……慶太と思い出ができるたびに、こんなこと、昔あったなって……ごめんなさい……」
 真純は、悲しそうに俯いて、バスローブの袖で、目元を拭った。
その姿は、まるで幼い少女みたいで、抱きしめるのも躊躇するくらい、純粋だった。
 だから、俺は、こう言うしかなかった。
「いいんだよ」
「よくないよ……」
どうしたら、いいんだろう。
無理矢理に、真純を俺の所へ引きずってくればいいのか?
それとも、真純を黙って、見守ってやればいいのか?
わからない。
誰か、教えてくれよ……誰か俺に、教えてくれ……俺……つらいんだよ……

「私のこと……好き?」
「好きだよ」
「どうして?」
どうして……どうしてなんだろう。昨日も聞かれたけど、そんなの、わかんないよ。
「真純だから」
バスローブの裾の合わせ目から、真純の細い太ももが、白く光る。
そっと撫でると、真純は体を寄せて、キスを待つ。
「愛してる」
 俺達は、ベッドの上でキスを交わして、悲しみと、嫉妬と、愛情を、わけ合った。
「私も、慶太のこと、愛してる」
 そうなんだよ。愛し合ってる。俺達は、こんなに深く、愛し合ってる。
なのに、なぜこんなに、悲しいんだろう。
なぜ俺は、真純を幸せにしてやれないんだろう。

 俺の何が足りないんだ。
 俺の何が……悪いんだろう……
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